約束

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約束

 ウィレムには結婚を約束した人がいた。  その人の名前はラナ。明るい笑顔の人だ。  ウィレムは、ラナに出会ってすぐ好きになった。困難な中でも笑顔を絶やさない、強い人だと思った。   「これ、ラナに」  ウィレムは、仕事の合間に摘んできた野の花をラナに差し出した。可憐な白い花だった。  ラナは、嬉しく微笑んで、受け取った。 「ありがとう。可愛い花ね」 「ラナの方が」 「え?」 「あ、いや」  ウィレムは、照れて誤魔化した。 「ウィレム! さっさと仕事に戻れ! ご主人様に言いつけられたいか!」  監督官が目ざとく休憩しているウィレムを見つけて怒鳴った。  二人は主人の領地で働いていた。働き手として買われ、ここで出会った。  ウィレムは、慌てて返事をする。 「すぐ戻ります!」  ウィレムは、持ち場に戻りながらラナを振り返った。ラナは小さく手を振っていた。  ラナは、頭巾の隙間に花の茎を挟んだ。ラナは、嬉しくなってまた微笑んだ。    二人は結婚を望んだが、結婚には主人の許可が必要だった。   「ウィレムは、国王軍に入れ」  それが、主人の出した条件だった。国王は戦争をしていたので、より多くの兵士を必要としていた。その為、領主は兵士を出せば出しただけのお金がもらえたのだった。   「生きて帰れないかも。私を一人にするの?」  ラナが言った。二人には家族がいなかったので、ウィレムが帰らなかったら、ラナは本当に一人になってしまう。 「でも、ラナと結婚したいんだ」 「ウィレム……」 「俺のわがままかもしれない。でも、許して欲しいんだ。必ず帰るから」 「ウィレム」  ラナも、最後には折れた。ラナ自身、ウィレム以外の人の妻になる気は無かった。 「行ってくる」  ウィレムは、そう言って村を出て行った。  戦場に爆音が轟いて、どの位時が経っただろうか。  雨が降り出した。  多くの兵士が倒れていた。その中に、もぞもぞと動き出す者が数人いた。  ウィレムは目を覚ます。  顔を雨粒が叩いていた。被っていたはずの兜は外れていた。爆発で砕けたのだろうか。  よろよろと上半身を起こし、立ち上がった。鎧がとにかく重かった。 (なにかおかしい)  ウィレムは思った。 (へんだ。目線が低すぎる……。まるで、子供になったみたいだ)  首をひねりながらも、生き残った者達は、ただその場所だけを目指した。自分たちの帰るべき場所。  帰りを待つ人のいる場所へ、と。
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