ただいま

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ただいま

「ただいま」  ラナは、家の前で声を掛けられ、驚いて振り返った。6歳くらいの男の子がいた。 「どうしたの、ぼうや。どこから来たの?」 「俺だよ、ウィレムだ!」  ラナは、目を見開いて、微笑んだ。 「まあ、私の旦那様と同じ名前ね。どこから来たの?」  子供は、繰り返す。 「ラナ! 俺だって!」  ラナは、また笑う。 「まあ、子供が俺、なんて、使っちゃダメよ」  子供は、困った様に顔を歪めた。 「ラナぁ」 「御婦人を呼び捨てにするのも駄目よ」 「ラナ、さん」 「あら、天気が悪くなってきたわね。あなた、行く当てがないならうちにお入りなさい」  ラナは、そう言って、子供を家の中に入れた。    その家は、ウィレムが二人で暮らす為に主人から借りた家だった。    小さな台所で、ラナは、夕食を作っていた。 「いつも作り過ぎてしまうの。食べてくれると嬉しいわ」  ラナは、子供を居間のテーブルに座らせ、食事を用意した。  干し肉の入ったスープと、パン、チーズだ。  子供は、申し訳なさそうな顔をする。 「どうしたの? 遠慮なく食べて」 「いただきます……」  子供は、食べながらボロボロと泣き始めた。 「どうしたの? 美味しくなかった?」 「ちがう……。ごめんなさい……」 「なにが?」 「ごめんなさい……」  子供は、食べ終わるまで、食べ終わっても、ずっと泣き続けていた。  
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