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おかえり
数年が経った。
レムは、日に日に成長し、やがてウィレムが村を出て行ったのと同じ年頃になった。
同時に、ラナは、同じだけ歳をとった。夫になる筈の人が帰らない悲しみは、レムが埋めてくれた。
その日レムは、仕事から帰って来るといつもの様に何気なく言った。
「ただいま」
夕食の支度をしていたラナは、背中でその声を聞いて、はっと息を呑んだ。
ラナが固まっている様子を見て、レムは不思議に思う。
「ラナ?」
ラナは、振り返った。そこに、ウィレムの顔があった。出て行った時、そのままの。
ラナの頬に、涙が伝い落ちた。
レムは、目を見開いた。ラナが泣いている理由が分からない。
「どうしたの」
ラナは、答えられなかった。彼女にも何が起きたのか分からなかった。
ウィレムがいなかった時間を埋めるような長い沈黙があった。
ラナは、言った。
「おかえりなさい」
レムは――ウィレムは、ラナを抱き締めた。
「ただいま!」
おわり
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