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受信ボックスに蓄積されたメッセージ。
――真子、こんばんは。今夜は綺麗な星空の下にいます。この景色、分けてあげたいな
――真子、こんにちは。俺は仕事でロスに来ています。嬉しいニュースを早く届けたいよ!
――真子、おはよう。今日も頑張ろうね
アリ君は私にとっての神様だ。どんな言葉も私の心を掴んで離さない。だから、だから早く帰ってきて。
「真子、いい加減目を覚ましなよ」
呆れた様子で、征太が言う。
「手の届かないものばっかり追いかけて、何になるんだよ」
そうだね。でも、いま私がこうして学校に足を向けている理由。嫌いな勉強を続けている理由。それらは全部アリ君の「今日も頑張ろうね」があるからだ。アリ君がいなければ私はとっくに不登校になって虚ろな心を持って干からびていたに違いない。
「あいつは真子を裏切っただろ」
いつだって征太は容赦がない。
アリ君が姿を消したのは三か月前。ドラマで共演していた女優との熱愛発覚、SNS上での誹謗中傷を理由にアイドル活動を休止した。アリ君は、誰もが知る若手アイドルグループのメンバーだ。
アリ君は、私を裏切ったのだろうか。三か月前で止まったファンクラブ会員向けのメッセージを眺めながら、私は思う。アリ君があらゆるコンテンツから姿を消した理由。言葉を発さなくなった理由。
アリ君にとっての原動力に、私はなれなかったのかな。
ピコンとスマホが鳴る。ファンクラブのアプリの通知音だった。
――みんな、久しぶり
スマホを持った指先がきゅっと冷えた。
――心配かけてごめんね。来月発売の新曲で完全復活します。待っていてね
真子、と征太が呼ぶ。頬を打つ風の温度が変わり、いつの間にか季節を跨いでいた事に気付く。ああ、そうか。世界から姿を消していたのは、アリ君だけではなかった。
いつの間にか長袖のシャツを着ていた征太の背中を追いかけながら、アリ君を思う。まだ聞こえない新しいメロディーを口ずさむ。
ただいま。
Fin.
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