きっとロンドンで

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「松永様よりかおりさんへ、アルマンド信号機入りました!ありがとうございます!」  ありがとうございます!という黒服の掛け声とともに、てかてかとしたケースが開く。中に詰められたドライアイスが空気中に広がっていく様は、アーロンのMV「RAIN」のスタジオセットを彷彿とさせた。          ボトルを手に取って、コルクの栓をポンっと引き抜くと歓声が上がる。  シャンパングラスに中身を注いで乾杯をする。  どういうわけか今日もシャンパンの味がしなかった。 「おいしい?」  松永の言葉づかいが胃の中でクリーミーな泡みたいに残る。体に酒をさらに注ぐと、その言葉はしゅわりと溶けて、私の一部になった。 「うん。おいしい」  返答がとっさに思いつかず、とっさに喉からぬるりと出た声は、想像以上に低いものだった。  それでも私の声を聞いた松永は、目を見開いて、やっぱりかわいいわ、と呟いた。 「あのー、松永さんにお話があるんですけど」 「ん?なになに?」  まだ誰にも話してなくて、という言葉を漏らすと松永は,さらに爛々と目を輝かせて、身を乗り出した。  松永に、すっと接近して耳元で囁く。 「えっ!かおりちゃん、ここ辞めちゃうの!」  そうなんですよ~、と上目遣いで、できるだけ甘えた声を出す。 「別の店に移るとかじゃあなくて?」  首を、縦に振る。松永は、まだ何か言いたそうに、口をぱくぱくとさせている。けれども、私が太股を撫でさすると、彼は酒を思い切り煽った。 「じゃあ、かおりちゃんが、このお店を卒業する日に、アルマンド6本入れてあげるね」  6本という馬鹿の極みみたいな響きに辟易とする。  そんなに金が余ってるなら、さっさと貢げよ、ごるぁ、という純然たる怒りに浸される。  その怒りを抑えながら、わ~、た~の~し~み~、と唇を動かした。  ふと松永のごつごつとした手に視線を落とす。彼の太くて短い指を眺めては、細くて長いアーロンの指と全然似てないなと感じる。  私は、容姿に恵まれていた。  上半身がやや華奢であるという弱点があったものの、持ち前の身長の高さを生かした立ち回りを覚え、金を稼ぎまくった。  また、メンテナンス費として、多くの金を消費する同業者が多い中、私は若さというアドバンテージのみで、極限まで消費を抑えた。  結果、高卒から働き始めてから、3年と2か月という短さで、「アーロン貯金」の1000万円まで目前というところまで来ていた。
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