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当時、私は、中学2年生だった。
妹が死んだと聞かされた時、誰よりも動揺したのは、母だった。
その日は、雨が、全てを押し流すほど凄まじく降り注いでいたことを覚えている。
葬式は粛々と行われた。
祖母に手招きされて棺の窓を覗き込む。横たわったチハルは、洪水で川に流されたとは、思えないほど綺麗な顔をしていた。
チハルちゃんはね、天国にいったんだよ、という祖母の言葉は、むせかえるような伽羅の匂いにかき消されて、消えていった。
業者に運び出されて行く棺に泣き叫ぶ母とそれを止めようと必死になる父。
火葬が終わって、顔の水分が全て抜けた母は、私の顔を見るや否や、顔の皮膚に手を這わせた。
「かおるは、ちはるみたいに綺麗な顔をしてるわね」
母は、消え失せそうな声で、にっと口角を上げた。
ぽしゃぽしゃどしゃどしゃざんざかごうごう
豪雨のオノマトペが頭の中で繰り返して、消えることなく、耳に張り付く。
雨のにおいがここまで漂ってきそうで、思わず息を止めた。
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