きっとロンドンで

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 それからというもの、雨が降るたびに、母はおかしな行動をとるようになった。  突然、声を上げて、泣き出すこと、145回。  髪をかきむしり、奇声を上げること、104回。  おやつを片手に、家を飛び出すこと、45回。  過呼吸になって、倒れること、7回。  父は、妹の遺骨を持ち去り、家から逃げ出した。  それでも、母の症状は、収まらなかった。  だから、私が、ちはるの代わりとして、女のふりをしなければ、母の奇行を止めることができなかった。    そんな時に出会ったのだ。  画面の中で駆け回る、ロックスターのアーロンに。  声を聴いているだけで、私は、大嫌いな雨の音から解放された。  そうか、こんなに簡単なことだったんだ。    ロックスターに恋する乙女というシンプルな構図。  私は、無駄なことを考えずに済んだ。  セッションするために、ギターを練習して、会いに行くために、お金を貯める。  そんな行為を反復する毎日。  そんな毎日が私の命を繋いだ。  今夜眠っても、朝、目覚めたときに起きる理由は、すぐに見つかった。  アーロンと出会った日、私は完全に生まれ変わったのだ。    だから、私は、………
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