きっとロンドンで

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「もう、行くのか?」     突然立ち止まった父が発した言葉は、哀愁を帯びていた。  「ただいま」をしたばかりだというのに。    私は、一度、身を翻して、父の正面に立つ。窓の外では、青空に白い綿の尾を引いている航空機が飛んでいる。 「心配しないで、ロンドンじゃなくて行くのはインドだから。」  だってインド行くと人生観変わるって言うからね、と続けると父は笑い声をあげた。じゃあ、今日はインド日和だな、と言葉を返され、意味が分からず、私も笑った。    じゃあねと手を振った私に、じゃ、と父も手を振り返す。  その光景が、ずっと脳裏で繰り返しているのは、救いようのなかった私に、答えをすぐに求めないという優しさをくれたからで、それ以外の何物でもなくて、溢れ出す何かを、自分のところだけで押さえこむなんてできなかった。 「お父さん!」  姿が見えなくなってしまう前に、私は、声を張り上げた。 「行ってきます!お父さん!」  再び父の足が止まる。身をこちらにゆっくりと向けた。 「かおる!楽しんで来いよ!」
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