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大学に通った四年の間、僕は実家に帰らなかった。一方、義務としての連絡は欠かさず、型通りのやり取りを重ねた。中身がないとはいえ、高校時代よりもコミュニケーションを取っていたと言えるかも知れない。
大学を卒業して会社に勤め始めたとき、両親からの仕送りも終わり、義務としての連絡は不要になった。
四月の終わりに僕は、
「ゴールデン・ウィークに帰る」
と連絡した。そして初任給で、安いスカーフとハーフボトルの洋酒を買った。父と母が喜びそうなものは何か、見当がつかなかったので、安い給料の範囲でそれっぽいものを選んだ。
バス停から家までの道はまったく変わっていなかった。見慣れた家々や山並みに、故郷に帰ってきたという気分が湧き上がってくる。家の前に着くと僕は、一旦止まって深呼吸した。そして、ガラガラッとわざと大きな音を立てて玄関の戸を開けた。
「ただいま。」
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