選択のテーブル

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(自分は、何も成し遂げていない。いや、何も選んでこなかったんだ……) この思いが、胸の奥深くに鉛のように沈んでいた。実直な父の家業を継ぐか、自分が本当に進みたい道へ進むか。どちらの道も、自分が選びたいとは思えないのに、時間だけが無情に過ぎていく。周りの友人たちは次々と自分の未来を決めて歩んでいくが、自分だけが立ち止まったまま、人生という大きな川に流される一片の葉のように漂っていた。 家業のせいで自分が進みたい道へ進めない。自分が本当に進みたい道は家業のプレッシャーがあって思い切れない。結局どちらもそれを便利な理由付けにして、無難な楽な道へ逃げているだけなんだ。殻に籠って周囲の人間の意見や気持ちを考えない身勝手な振る舞いも、自分の今の境遇が悪いからだと言い聞かせるだけで。 無責任な調理……放棄……か。 添えられている野菜たちも、見た目は鮮やかだったが、それぞれが個々に存在しているふぁけで皿の上で互いにぶつかり合っていた。マッシュポテトはふんわりとしている筈が重たく、蒸し焼きにされたニンジンやズッキーニは、味付けが過剰で、それぞれの自然な風味が抑え込まれていた。野菜たちが皿の上でただ無秩序に並べられているだけのように見えた。 自分には何の才能もない、特別なものなんて何もない。 ユージィは、胸中にわき起こる無力感と焦りに苛まれていた。母親は家業を継いでほしいと何度も口にしてきたし、父親は「お前の自由に決めろ」と言いつつも、家族の期待を感じさせる視線を送ってきた。友人たちは進学先や将来の夢を語り合う中で、自分だけがその話題に入り込めず、表面的に笑顔を保ちながらも、内心は苦しんでいた。 どうして、自分だけがこんなに決断できないのか…… 彼は心の底からそう信じ込んでいた。絵を描くことが好きだった幼い頃の夢は、家族の現実的な助言で消え去った。科学や文学に興味を持っていた高校時代も、何も行動に移さず、その場しのぎの選択を繰り返してきた。いつも自分の選択を誰かに委ね、その結果に後悔しながらも、自分の弱さを正当化していたのだ。まったく統一性が無い自分。 料理は完成度も調和もなく、それぞれの素材がどこか独りよがりで、互いに歩み寄ることを拒んでいるようだった。まるで、ユージィ自身のこれまでの決断や選択が、この料理に反映されているように感じられた。全ての要素が揃っているにもかかわらず、それらがかみ合わず、ひとつもまとまりを持っていない。それは、今の彼の人生そのものを映し出しているようだ。
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