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ユージィには一瞬の躊躇いを感じた。前菜は完璧だった。そしてまた運ばれてきたメインの肉もジューシーで、ソースは繊細な味わい。しかし、どこかの何かが変だと感じられるような、妙な感覚があった。
「ただいまお作りしております」
ウェイターが再び現れ、その言葉を口にした。ユージィは、今度こそその言葉の意味を問いかけたくなった。
「一体……どういうことなんだ?こうして料理が運ばれてきているのに『ただいまお作りしている』とは?」
ウェイターは、銀の瞳に静かに微笑みを浮かべながら答えた。
「私どもは、お客様のこれまでの人生を元にお料理を提供しております。ただいまわたくしがお運びしたこのお料理も、勿論それに準じたものになっております」
問いかけの答えではなかった。
ユージィはナイフとフォークを置き、改めて運ばれてきた料理をとっぷりと眺める。メインに据えられた肉は恐らく高級なものであろうことは、食通ではないユージィにも感じ取れた。だがソースは……。ソース自体は十分に美味しいものではあったが、この肉料理には到底合うようなものではない。料理では素人の部類に入る自分であってもこんなソースの選択はしないだろう。味の調和も何もあったものではない。
更に言えば、付け合せの彩を添える筈の根菜類などの料理パーツは、それぞれが艶やかな色彩であったりはするもののまったく統一性が無く、ただプレートに乗っているだけ。メインと語り合う気も協調する気もないように見える。何よりも、お客に出すような料理とは言えないほどの無責任な調理だ。これは酷い、酷すぎる。職務放棄といっても差し支えないだろう。
せっかくの前菜の香ばしい風味を台無しにされたユージィは、料理に対する不誠実さにふつふつと怒りが湧いてきた。「どうなっているんだ!シェフを呼べ!」という言葉が出掛かったが辛うじて堪え、テーブルの傍に立つウェイターに
「なぁ、君。さっきの『パストの』何とかいう前菜は本当に美味しかったよ。でも、このメインディッシュは何だ。なんでこんな出来損ないの料理を運んで来たんだ!?」
とやや語気を荒げて尋ねたが、ウェイターは変わらず無表情のまま
「いえ、お客様、ただいまお作りしております」
と再びそれを繰り返した。
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