選択のテーブル

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さすがにこの無節操な返答には怒りを覚えたユージィは、思わず席を立ちあがりかけた。が、それよりも僅かに早く 「私どもは、お客様のこれまでの人生、そしてこれからの選択を元に、お料理を提供しておりますので」  先程の前菜は、家族と体験した出来事、子供の頃の友達との触れあいで感じた感情を思い起こさせるものだった。前菜が自分の過去を表象したものだとすると…… 「これは、現在の自分なのか?」 「左様でございます、お客様。お客様が先程感じていらっしゃった通り、わたくしどもはそれを料理にしてお運びするだけ。お客様に『相応しい』お料理なのではございませんか」 ウェイターは静かな笑みを浮かべて恭しく頭を下げた。 メインディッシュは、見た目こそ豪華に盛り付けられていたものの、その不調和さが際立っていた。メインのステーキは確かに美しい焼き加減で、外は香ばしく、中は絶妙なピンク色に仕上げられていた。が、その上に掛かっているソースの風味は肉に馴染んでおらず、むしろ味覚を乱すような不協和音を奏でていた。 まるで今の自分だな。 ずっと迷い続けてきた。道筋は霧に包まれ、自分がどちらへ向かうべきか、まるでわからなかった。 両親に進路を相談すれば、「お前のためを思って」と言われ、友人たちは「こうするのが普通だ」と助言してくれた。その度にユージィは自分の声を抑え込み、他人の言葉に耳を傾けていた。仕事でも生活でも、いつも他者の期待に沿うように動いていた。そして、その結果が今の空虚な自分だった。 僕は何も選択していない。選択できない。いつも誰かのせい。他人任せ。 一口運んだときに、ユージィは強い躊躇いを感じた。ソースは不必要に甘く、まるで場違いなものだった。まるで、何かを取り繕おうとするかのように、上品さを装いながらも、実際には素材の良さを打ち消してしまう。ステーキのジューシーさや肉本来の風味を楽しむどころか、口の中に違和感が徐々に増していった。
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