選択のテーブル

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ユージィは、未来を思うたびに恐怖に駆られる自分に気づいていた。新たなステージに進むことができず、過去に囚われ、選択の重さに押し潰されそうになる。選択を迫られるたび、彼は自分の心を閉ざし、答えを先延ばしにしてきた。再び耳に残るのは、あの言葉であった。 「ただいまお作りしております」 自分の未来を自ら選ぶことができるのか、それとも他者に操られているのか。言葉が響くたびにユージィは自らの選択が他者によって作り上げられていることを思い知らされる。未来は果たして自分の手の中にあるのか。 「お客様、食後のお飲み物はいかがですか」  その声にユージィが顔を上げると、テーブル脇には先程までのウェイターではなくウェイターと同じ格好に身を包んだ白髪の老紳士がおり、「料理長(シェフ)です」と名乗った。 彼の目には深い知恵と経験が宿っているように感じられた。ユージィはその目に引き寄せられるようにコクンと頷き、自らの心情を吐露した。 「今、自分が何を選んでいるのか分からないんです。」 老紳士は微笑み、香り立つコーヒーを注ぎながら言った。 「時には、選択を避けることも必要です。人生は選択の連続ですが、それに囚われすぎると、本当に大切なものを見失います。ただいまデザートをお持ちいたします」 ユージィは深い溜息をついた。デザートの到着を待つ時間、これまでの人生を振り返らずにはいられなかった。皿の上に置かれた料理のように、自分の人生も何かが欠けていると感じていた。彼が選んできた道、いや、選ばずに歩かされた道が、果たしてこれで良かったのか。それはもう確信を持てなかった。 夢はいつの間にか曖昧になり、周りの期待や親の意向に無闇に抗うように別の道を歩んできた。一時的には自己満足心にはぽっかりと穴が空いていた。その穴を何で埋めるべきか、答えは見つからないままだった。 夢を追っていた自分はもういない。ただ、夢を追うことを放棄した自分がいるだけだった。
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