いつの間にやら

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 高校生のくせに、こんな高級マンションにひとり暮らしすることを許されている都築は、眉目秀麗のお坊ちゃん。街を歩けば、芸能事務所やモデルのスカウトを受け、ほほ笑めば通りすがりの老若男女を振り向かせる。妙なカリスマ性も持ち合わせているものだから、いつの間にやら、夜の街の若者グループのリーダーのような立場に祭り上げられていたりする。本人はうっとおしそうにしているが、もともと面倒見のいい性分なのと、派手な揉め事を厭う平和主義なところがある故だ。  隼人との出会いも、そんな、夜の街のいざこざ絡みだった。だいぶ昔のような気もするが、高校に入りたての頃だったから、そんな前のことでもない。  いつの間にやら、都築の家に出入りが許されるほどの信頼関係を結んでいたわけだが、果たして、なにか特別なことがあったかと言えば、特にない、としか答えられない。  強いて言えば、波長が合う、という感じだろうか。 「ただいまー」  玄関の鍵が開いているということは、誰かがいるということだ。そう思って、三和土(たたき)を見るが、いろんな種類の靴が散乱していて、誰がいるのか予想がつかなかった。  学校が終わって直行してきたから、一番乗りかと思っていた。  リビングにつながる扉を開けた。 「ただい・・・」  隼人はふいになにかに思い当たった。口をつぐみ、リビングの入り口で佇んでしまった。  そんな隼人に、リビングの大きなソファから「おかえりー早いなあ」と、呑気な声をかけてきたのは、家主の都築。  約180㎝の長身をゆったりと伸ばして横になり、雑誌のページを眺めて寛いでいた。 「・・・・・」 「あ?」  動く気配がないことを訝しんだのか、都築が顔を向けた。  隼人は眉間にしわを寄せて、都築を見た。 「なあ都築、俺いま、『ただいま』って言ったよな」 「ああ」 「・・・なんで?」 「は?」  今度は都築が訝しそうな顔を、隼人に向けた。
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