いつの間にやら

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 高級住宅街の、これまた高級そうなマンションのエントランスを、隼人(はやと)は物怖じすることなく突っ切った。エレベータ―の上の階行きボタンを押すと、すぐに目の前の扉が開く。そのままふかふかのじゅうたん敷きのエレベーターに乗り込み、勝手知ったる手つきで目的の階のボタンを押した。  夕方16時。  音もなくエレベーターは止まり、扉が開いた。隼人は肩にかけたリュックサックを背負い直し、廊下に出ると、スタスタと歩いてある玄関の前に立つ。迷いなく、ドアノブに手をかけた。  ガチャリ、と玄関は抵抗なく開いた。  いくら高級マンションでセキュリティ万全とはいえ、不用心だよなーと思う。だが、家主である都築(つづき)の方針なのだ。  誰かが家にいる時は、鍵をかけない。  夜22時以降と、家に誰もいなくなる時は、鍵をかける。  なんでこんなルールができたのか、経緯を思い出そうとしてみたが無駄だった。  たぶん、いつの間にやら、なのだ。
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