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マリアの怒りが、爆発した…
「…なに、あの女!…」
マリアが、リンに対抗心剝き出しで、口走った…
母親のバニラを差し置いて、怒った…
私は、正直、内心、面白いと、思った…
母親のバニラが、どんな態度を取るのか、見たかったからだ…
だから、面白いと、思った…
が、
バニラは、予想外の態度を取った…
あり得ないことだが、娘のマリアを叱ったのだ…
「…マリア…パパの行動に、アレコレ、口を挟むんじゃ、ありません…」
と、叱ったのだ…
すると、当然、
「…どうして?…」
と、マリアが、言った…
子供ながらに、反論した…
「…どうして、ママは、怒らないの?…」
と、反論した…
すると、即座に、
「…パパを、信頼しなさい…パパを信じなさい…」
と、バニラが言った…
まるで、自分自身に言い聞かせるように、言ったのだ…
私は、急いで、バニラを見た…
どんな表情で、そんな言葉を言っているのか?
知りたかったからだ…
すると、バニラの手が小刻みに震えているのが、わかった…
わかったのだ…
つまりは、怒りを抑えているのだ…
自分の怒りを、一生懸命、抑えているのだ…
私は、思った…
思ったのだ…
すると、あろうことか、リンが、マリアに近付いてきた…
そして、サングラスを外して、身を屈んで、マリアの顔の近くに、自分の顔を寄せた…
それから、
「…お嬢ちゃん…随分、気が強いのね…」
と、優しく言った…
優しく、日本語で言った…
これには、驚いた…
まさか、台湾人のリンが、日本語を話せるとは、思っても、みんかったからだ…
しかも、流暢…
イントネーションが、完璧…
日本人とまったく、同じだった…
これは、驚いた…
私が、驚いて、リンを見ていると、リンも私の視線に、気付いたのだろう…
「…母が、日本人なんです…」
と、私に言った…
明らかに、私に向けて、言った…
「…だから、日本語は、子供の頃から、話しているので…」
リンが、言った…
私に説明したのだ…
私は、
「…そうか…」
と、言った…
つい、いつものように、言った…
が、
これが、マズかった…
マズかったのだ…
「…お姉さん…随分偉そうですね?…」
「…なんだと?…」
「…と、言いたいところですが、お姉さんが、話すと、なんだか、全然、偉そうに、聞こえない…お姉さんの人徳ですね?…」
リンが、笑いながら、言う…
これには、私も、驚いたが、なにより、驚いたのが、このリンが、私を、
「…お姉さん…」
と、呼んだことだ…
これは、きっと、偶然ではない…
あらかじめ、調べているに、決まっている…
この矢田に向かって、初対面で、
「…お姉さん…」
と、呼ぶことなど、ありえんからだ…
だから、驚いたと、同時に、震撼した…
このリンという女に震撼した…
震撼した=ブルった…
おそらく、今日、葉敬といっしょに、来日する前に、葉敬のことを、調べ尽くしたに、違いないからだ…
なにより、それが、わかるのは、リンダとバニラが、この場にやって来ても、驚かないことだ…
あるいは、リンダとバニラが、誰か、一目見て、わかったのかも、しれない…
なぜなら、リンダとバニラは、葉敬の会社、台北筆頭のキャンペーンガールを務めているからだ…
おまけに、リンダとバニラは、有名人…
二人とも、白人…
なにより、身長が、高い…
リンダは、175㎝…
バニラは、180㎝…
と、高い…
だから、目立つ…
一目見て、わかるかも、しれん…
が、
しかし、だ…
このリンダと、バニラが、日本に滞在している情報は、世間に知られていないはずだ…
リンダは、ハリウッドのセックス・シンボル…
片や、バニラは、アメリカを拠点とする、モデル…
当然、二人とも、アメリカにいるはずだからだ…
それが、今、日本にいる…
だから、リンにしてみれば、驚愕するはずだが、それもない…
当たり前のように、受け入れている…
ということは、どうだ?
事前に、知っていたと思うのが、自然だろう…
事前に調べていたと、思うのが、自然だろう…
私は、このリンの行動を見て、思った…
思ったのだ…
そして、そんなことを、考えていると、
「…なにを、考えているの? …35歳のシンデレラ…」
と、いきなり、私の別名を呼んだ…
葉尊と結婚して、玉の輿に乗った私を評して、世間が、私を、
「…35歳のシンデレラ…」
と、呼んだ…
それを、言ったのだ…
たしかに、葉尊と結婚した半年前は、私と葉尊の結婚が、世間を賑わせた…
35歳と、少しばかり、歳をいった私が、葉尊と結婚した…
台湾の大富豪の御曹司と結婚した…
しかも、私は、ルックスは、平凡で、生まれも、平凡…
そんな女が、大金持ちの御曹司と結婚したのだ…
それは、世間に、衝撃を与えた(笑)…
なにより、世間に勇気を与えた…
なぜなら、今、日本では、結婚が遅い…
もはや、30代で、女が、結婚しても、珍しくも、なんともない…
大昔、昭和の時代では、女は、子供は、二十代で、産み上げるのが、理想と言われたものだ…
二十代で、子供を作り、もはや、三十代では、子供を作らない…
それが、理想と言われたものだ…
つい、30年前や40年前は、それが、理想と言われたのだ…
それが、今や二十代で、子供を産み上げるどころか、結婚が、三十代とは…
時代の流れを感じる(笑)…
話は、少々、横にそれたが、つまり、35歳と、それなりに、歳を取り、しかも、平凡な容姿で、平凡な家庭出身の私が、台湾の大金持ちの息子と結婚したことから、日本中で、大騒ぎになった…
要するに、三十代で、まだ結婚していない女たちに希望を与えたのだ…
あの程度のルックスで、あの程度の家庭出身で、大金持ちの息子と結婚した…
ならば、自分にも、できるのではないか?
そう、世間に思わせたのだ…
そして、それを、マスコミが、散々、流した…
世間に受けると、考えたのだろう…
だから、半年前は、おおげさでなく、日本中で、私を知らない者は、いなかった…
それほどの、有名人だった…
が、
それは、一時的なもの…
今では、街中で、私を見ても、
「…あっ! 35歳のシンデレラだ!…」
と、呼ぶものは、誰もいない…
たとえ、私を35歳のシンデレラと、わかっても、私に話しかけて来るものは、いない…
一人もいない…
いわば、私は、
「…あのひとは、今…」
状態…
昔、売れた芸能人扱いだった…
それが、今、このリンが、私を、
「…35歳のシンデレラ…」
と、呼んだ…
だから、驚き…
驚きだったのだ…
私は、呆気に取られて、リンを見ていると、
「…どうしたの? …35歳のシンデレラ?…」
と、笑いながら、私にリンが、話しかけてきた…
実に、楽しそうに、話しかけてきた…
あるいは、
私をからかうように、話しかけてきた…
だから、普通なら、私は、怒るところだが、それも、できんかった…
なにしろ、葉敬の目がある…
葉敬=お義父さんの目がある…
が、
それ以上に、驚いたのだ…
このリンという女が、初対面にも、かかわらず、いきなり、私を、
「…お姉さん…」
と、呼んだことに、驚いたのだ…
だから、怒れんかった…
反応できんかったのだ…
私が、どうして、いいか、わからず、固まっていると、マリアが、
「…どうして、矢田ちゃんのことを、35歳のシンデレラと、呼ぶの?…」
と、マリアが、聞いた…
実は、この矢田が、聞きたいことを、聞いた…
すると、即座に、リンが、
「…お嬢ちゃん…このお姉さんは、台湾では、有名なの…」
と、答えた…
私の想定外のことを、言った…
だから、思わず、
「…有名?…」
と、呟いた…
当たり前だった…
すると、リンが、まっすぐに、私を見据え、
「…そう、有名…なんてったって、台北筆頭の御曹司を射止めたひとだから…」
と、答えた…
「…射止めた?…」
私が、つい、呟いて、仰天していると、
「…台北筆頭の御曹司は、台湾の女は、みんな狙っていた…台北筆頭は、台湾一の大企業…その御曹司と結婚するのは、年頃の女なら、誰でも、夢見ること…もちろん、私も、夢見ていた…」
と、私に向かって言った…
この矢田に向かって言った…
いわば、正面から、正々堂々と、この矢田にケンカを売ったのだ…
私は、驚いた…
正直、驚いて、言葉もなかった…
まさか、初対面の相手に、ケンカを売られるとは、思っても、みんかった…
考えても、みんかった…
しかも、その相手が、リン…
台湾で、今、知らない者が、誰もいないと、いうチアガールのリンだった…
私は、思わず、固まった…
まずは、カラダが、固まり、次いで、脳も、固まった…
いわゆる、思考停止状態になった(苦笑)…
<続く>
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