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◇
その後しばらくの記憶があやふやだ。
茫然自失状態のわたしは、なんとか皆さんとの挨拶をすませ、フラフラと席についた。
入れ替わり立ち替わりいろんな人が声を掛けてくれたけれど、名前と顔が一致しないどころか、話途中でぶわっと涙が溢れたりして心配かけまくったりと、散々だった。
わたしの女神、彩葉さんは、正真正銘の男性だった。
心も男、体も男。
チャットでやり取りしていた際の時折男っぽい言い回しなどは、サバサバした性格の現れだと思っていた。
チャットとはいえビジネスツール、親しき中にも礼儀ありで、彩葉さんは自分の一人称を「私」もしくは「自分」と表現していたことも災いした。
(そう、これは災いです)
「確かに女性っぽい名前ではあるけど。
だってアンタが初めに彩葉さんのこと憧れる〜って言った時、でもお子さんいるよってあたし伝えたよね?」
あとから来た紗菜が、呆れたように言う。
彼女も、彩葉さんが男性であることをとっくに知っていたらしい。
『でも』の逆接接続詞を何故拾えなかったのか。
紗菜の言った『シングル』を『シングルマザー』と勝手に自己変換したのも自業自得だ。
「それでも好き好き言ってるから、推し的な存在なのかと思ってたよ。
まあ、それは性別関係ないか」
そうだけど、そうなんだけど。
「実は男性だったからって、これまでの彩葉さんへの感謝やリスペクトがなくなるわけじゃないでしょ?」
そうだよ、そうなんだけど。
「てか笑う。あっちも忍の性別勘違いしていたなんてね」
───ほんそれ。
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