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解③
「分かりました。では、こちらから連絡を入れましょう」
「ありがとうございます、朝倉刑事」
話を終えると、朝倉がすぐに動き出した。アポイントを取るべく会議室の外へ出て行く彼を見つめながら、識は更に思考を巡らせる。何か他に見落としている事はないか? 記憶と共に、洋壱とのあらゆるデータを見直す事にした。そうしていると、洋壱とのこれまでの思い出も蘇り涙が出そうになる。なんとか堪えて作業に集中しようとしたのを止めたのは、竹田だった。
いつの間に入室して来ていたのだろう。全く気付かなかった事に驚いていると、竹田がゆっくりと諭すように口を開いた。
「探偵さんや、アンタの気持ちも分からなくはぁねぇがな? 無理しちゃあダメだ。特に、こういう人の生き死にに関しちゃあな?」
「えと、竹田刑事……それは俺が素人だからですか?」
「ソイツも一理あるがなぁ? 何よりも、心さね。心が持たねぇと、やってらんねぇもんさ。朝倉に乗っかりすぎるなよ?」
「は……い」
竹田からの忠告と圧に、識は素直に頷いた。時間を見れば、すっかり夜で今日一日だけで色々あった事に驚いた。そうしていると、話を聞いていたのかは不明だが、朝倉が入室して来て、今日はここで帰る事になった。識は荷物をまとめて、会議室を出る。
「お気をつけて。あぁ、アポイントの件に関しては連絡がつきましたので、後程端末に送ります」
「お願いします。では……失礼します」
短いやり取りを終えて、識は自分の車を取りに行くか迷って、明日事務所に向かう時で良いと判断しこの日はタクシーで帰る事にした。署から離れた道で、タクシーを拾うとそのまま帰路に着いた。
****
自室に帰宅し、鍵をかけた識は荷物を抱えて短い廊下を通る。内扉を開けて、荷物を降ろして暖房をつけて……識は床に寝そべった。気力が限界だった事に気づき、目を瞑る。すぐに意識を手放した識は、気絶するように眠りに落ちた。
翌朝、身体の痛みと底冷えで起きた。暖房をつけていなかったら、今頃寒さで風邪をひいていただろう事実に、識は苦笑する。痛む身体を無理矢理起こすと、軽くストレッチをしてから、シャワーを浴びに行く。温かいお湯が冷えた身体に沁みわたる。そんな中で、識は思考を巡らせていた。
(洋壱の取引先の女性の死……そこから何かわかるといいんだが)
今は少しでも糸口が欲しい。怒涛の昨日から何か向こうでも掴めている事に期待しながら、服を着替える。そこで、昨日は見られなかった朝倉からのメッセージを確認した。
『明後日、午後三時からアポイント取れました』
その文字を見て、長いなと思いつつ識はその間に出来る事を探す。そうでもしないと……辛いからだ。
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