謎③

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謎③

「海水で溺死? それも室内で?」 「そうです、進藤さん。不可解にも程があるでしょう?」 「それはそうですが……それよりも、俺がどこで何をしていたのか? アリバイを聞かなくていいんですか?」 「おっと失礼。そうですね、お聞きしないといけない。いや~これじゃあ刑事らしくないですね」 「それで? 洋壱はいつ死んだんですか?」 「えぇ、鑑識の調べでおおよその死亡推定時刻はわかっています。昨日の二十二時三十分から四十分の間ですね。その時間貴方は?」 「俺は、仕事中でした。開示請求をされていないので、詳細な依頼内容についてはお話できませんが、調査のため区内のキャバクラに。防犯カメラがあったので店に行けばわかるかと思います」 「そのようですね? いえ、実はすでにそこは調べ終わっているんですよ」  朝倉の言葉を受けて、識は更に困惑の色を濃くした。既に調べがついているという事は、第一容疑者が自分であったと言われたようなものだ。いや、暗にそう言っているのだろう。それらを踏まえた上で、この朝倉という刑事は自分に協力を申し出ているのだと理解した。不思議と怒りはなかったが、それよりも洋壱の事が気になり、気づけば識は身を乗り出していた。 「朝倉……なんとお呼びすれば?」 「そうですね~出来れば、朝倉刑事と呼んで下さると嬉しいですねぇ」 「では、朝倉刑事。俺のアリバイ証明が出来た所で、協力とはどのように?」 「お、ようやく乗り気になって下さいましたか。では、詳細をお話させて頂きましょう」  朝倉は、資料が入ったファイルをまためくると、何枚かの写真を取り出した。それは、洋壱の遺体や周囲の状況を写した現場写真だった。そこには、枕を下に引いて、ベッドサイドと壁にかけてもたれかかり死亡している洋壱の遺体が生々しく写っている。初めて見る現場写真のおぞましさに識は思わず身体が小刻みに震えるが、それを無理矢理鎮めて声を絞り出す。   「確かに洋壱の部屋ですね。着ているのも、アイツが気に入っているプチプラの寝間着だ」 「そう、彼は寝間着姿でした。その上で顔の方を見てください。髪が濡れているでしょう?」 「確かに……びっしょり濡れていますね」 「そうなんです。顔だけが、濡れていて……海水で溺死しているんです」 「確かに、不可解にも程がありますね。……既に調べ終わっていると思いますが、洋壱の部屋の鍵は?」 「施錠されていました。合鍵はご両親の手元にあり、かつご両親のアリバイも確認済みです。あぁ、それと。窓もベランダも、全て施錠されていました」 「つまり……密室?」 「そういう事ですね」 「無粋な質問かもしれませんが、指紋については?」 「鑑識が調査中です。あぁ、一応貴方の指紋も後で取らせて頂けますか? まぁ日頃から出入りしていれば指紋が出るのは当然なのですがね?」 「確かにそうですが……わかりました……」  今までの状況を整理すればするほど、洋壱の死は不可解だった。俗に言う密室殺人。それが、自分の身内に起こると、こんなにも苦しく怒りと悲しみが襲うのかと識は内心で驚くと同時に、決意を固めていた。 「ご協力させて下さい。もっとも、たかが探偵如きになにができるかはわかりませんが」 「その辺は自分が全面的にサポートさせて頂きますからご安心を」 「失礼ながら……朝倉刑事は署轄の方なのでは? こういう事件では警視庁が絡むものだと思っていたのですが?」 「あぁ、申し訳ございません。刑事である事は話していても、所属まではお伝えしていませんでしたね。自分は、その警視庁所属の刑事なんですよ」  朝倉の言葉に識は思わず目を丸くした。てっきり警察署の刑事とばかり思っていたが、そう言えば電話口で警察署からかけていて、かつ名乗りはしていたが朝倉は一度も警察署所属であるとは言っていなかった。 (この刑事、食えないな……) 「さて、これで憂いは晴れましたかね? 進藤さん」 「えぇ。それでは調査……という所なのでしょうが、何せこちらは素人同然ですし、何度も言う通り民間人だ。権限等ないですよ?」 「そこもご安心を。自分が全面的にバックアップ致しますので。俗に言う……相棒(バディ)という奴ですかね~?」 「刑事と探偵の……ですか? 被害者の友人であると思うと、悪夢みたいだ」 「でも、だからこそ……解き明かしたいでしょう?」  どこまでも見透かしているような朝倉に、改めて抜け目がないと感じた識だったが言われた通りだったため反論することはせず、素直に従う事にした。  この不可解な親友の死を紐解くために――。
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