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幸せ犬は二匹いる。少なくとも、ゆきちゃんの見た柴犬と、春貴の見たコーギーの二匹。実はもっといるのかもしれない。頭が痛くなるまで考え続け、恭介はお風呂でのぼせかけた。鬼ごっこをしよう。その言葉に返事をしたら、一体どうなってしまうんだろうか。
半信半疑だった者も、数日後に春貴が新作のゲームを手に入れたという話を聞いて、俄然幸せ犬を信じるようになった。春貴の家は滅多にゲームなど買ってもらえない厳しい家庭だが、たまたま機嫌のよかった父親がその場でネット通販を使ったという。これはなんとしても幸せ犬に会わなければならない。恭介は眠る前に神様に祈る。どうか幸せ犬の姿を見られますように。
だから悠士が言い出した時は、先を越された気分になった。
「俺、絶対幸せ犬さがすから」
既に春貴の話は学校中に知れ渡っていた。わざわざ昼休みに教室まで来て宣言するのに、恭介はげんなりした顔をする。それも気にかけず、悠士はやる気満々だった。
「でもさあ、放課後って先生に帰れって言われるじゃん。なかなか残れないよ」
放課後五時のチャイムで、生徒は全員帰らなければならない。それでも学校に残っているのが見つかれば、先生に叱られてしまう。真一も隣で頷いた。
「チャイムが鳴ってから学校で幸せ犬を探してても、先生に見つかる方が早い気がする」
「そしたら、幸せ犬を見つけるより不幸なことじゃない?」
廊下でこそこそ忠告すると、悠士は「なんだよ」と不貞腐れた顔をした。
「隠れてりゃそんなすぐには見つからねーだろ。見ただけで良いことが起こるんだったら、俺が幸せ犬を捕まえてやるよ」
「そんなことできないよ、だって相手は普通の犬じゃないんだし」
「なんだよ恭介、おまえこういう話好きなんじゃなかったのかよ。見てみたいだろ?」
「いや、それはそーなんだけど……」
僕もやりたいとは言い出せない雰囲気だった。悠士は幸せ犬がもたらす「良いこと」をまず独り占めしたいんだろうし、恭介が出し抜いて先に学校に隠れたと知れば怒るに違いない。無意識に引き止める言動をしてしまったせいで、悠士は一層やる気になっていた。
「そんでさ、捕まえたら学校で飼おうぜ。いいことづくめじゃん」
「学校で犬飼うなんてさあ……」
恭介の愚痴は、予鈴の音にかき消えた。あと五分で掃除の時間だ。渋々解散し、恭介は割り当ての清掃場所に向かった。
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