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それから幸せ犬の噂は忽然と姿を消し、代わりに放課後になるとポメラニアンの顔をした半裸のマッチョが学校をうろつくという噂が囁かれるようになった。奴は鬼ごっこの相手を探しており、見つかると全速力で追いかけてくるという。
その話を、帰省の折に友人が語った。今は彼の妹が通い、僕らも十年前に通っていた小学校では、今も犬面人が遊び相手を探しているらしい。変態が現れたと一時は警察を呼ぶ騒動にもなったが、どれだけ探しても犬の顔をした下着姿の男は見つからなかった。しかし、校舎や校庭を走り回る犬面人の姿は容易に想像できる。身震いする僕を見て、ビールを片手にお好み焼きをつつきながら「心配するなよ、恭介」と真一は言った。
「あれは、子どもにしか出会えないんだ」
僕は鉄板から小皿に移したお好み焼きにソースをたっぷりかけながら、それならもっと可愛げのあるものがいいと思う。トトロとまでいかなくとも、まだ犬の形をした幸せ犬の方がマシだ。
もう会えないと分かれば少し寂しい気持ちになるとお思いだろうか。否、今でも僕は、当時の山で黒いトランクス一丁の犬顔をしたマッチョに追いかけられる悪夢を見る。
あれに追いつかれたらどうなるかって。それはもう思い出したくない。
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