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その日も、私は川を見ていた。
すると……それまで聞いたことのない声が聞こえたのだった。
私が横を振り向くと、そこには男が立っていた。
立っているように見えた。
その者を…………私はどこかで見たような気がした。
…………あ、わかった、そう、そうだ、お父さん……に、似ている……。
写真でしか知らない、私が生まれてからすぐに事故で亡くなってしまった父親に、その者は似ている気がした。
「……そうですか? よかった〜。……似ているでしょう? この姿で出てくると、びっくりさせないで済むのかなぁ〜と思いまして。……お呼びいただき、光栄でございます……はじめまして〜……ふふふふふ」と、お父さんに似ている男は妙に惹かれる笑みを浮かべて、会釈した。
…………。
私は何も言えずに、その者を見返した。
見つめているつもりだった。
「……何日か前に犠牲を用いた召喚の儀式を行いましたよね? あなたは……それほど本気ではなかったのでしょうが、あの後にここへ現れたので〜す。……う〜〜ん、いい……場所ですね〜。橋から川を見下ろすのが好きなんですよね? ……知ってますよ。……相手の心を読めるのですから、我々は。……ここには海につながっている川があって……人々は成長して、この川へ戻ってくる習性を持つ魚を捕らえますよね。……幼い頃から思っていたのでしょう? あの魚は……なぜ、捕まえられてしまうのに……生まれた場所に帰ってくるんだろう、と。もしも……あの魚が……自分の進む道を知っていたとしたら……魚は川に戻ってくるのかなぁ?と、ね〜」
…………。
その日、初めて会ったはずの者の言葉に、私の内部へ心地よく響く言葉に考えさせられた。
……私が心の中で、私が考えていたことをこの者は軽快に喋っている。
このとき……私はこの者へ対して、響く言葉に対して、少しも恐怖心を抱かなかった。
不思議なほどに私は平静であった。
閉じられた本のように私は黙り込んでいた。
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