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大きくもなく小さくもない声は述べた。
「……ほら……川の水、水面をご覧ください。……誰もいないでしょう? ……水面には、あなたの他に誰も映っていないでしょう?」と。
私は相手の言葉通りに川面(かわも)を見た。
本当に誰もいなかった。
声は続けた。
「……しかし、あなたには知っている方と似ている者の姿が見えて、声だって聞こえています。……ご安心を。あなたの気がおかしくなったのではありません。あなたへ危害を加えるつもりもありません。……これを……あなたへもらって、あなたには、これになってほしかったのです……」
その者はどこからか、不思議な書物を差し出してきた。
私は拒めないちからによって、書物を受け取ったような気がした。
……そうすると、バサッと何かが乾いた音を立てて橋の上へと落下した。
待っていたら…………私は……上へと持ち上げられた。
「…………人生の攻略本です。この本を開くと……手にした人間にとっては道導となり、すばらしい情報の数々に出会えることでしょう。上手に使えば……誰であれ、もう二度と悩むことなどないかもしれません」
手にした者の内部へ直接、注ぎ込んでやる。
「……どうせ、人生ってつまらないものなんですよね? 嫌な思いはしたくないんですよね? どんなときも自分だけが可哀想に感じますよね? 他の誰かを少しも可哀想とは思いませんよね? いつもいつも、そう思っているのでしょう? だったら、読んでみてください。これに目を通してみてください。すべてが書いてあります。……最初からどうなるのかわかっていたら、驚くことも苦しむことも自動的になくなり、切望している安心感だって、簡単に得られるはずでしょう? ……困っている誰かを救いたい。いえ、救うというよりは……どうなるのか、それを見てみたい。ちからを得たのだ、と感じたいじゃないですか。自分に価値を付けたい、じゃないですか。……知りたいことってたくさんありますよね? ……誰かの役に立てるって、素晴らしいことですよね? ……人生の攻略本は、手にした者を騙したりなんかしません。他は別として、これについては嘘はつきません」
「……もしも、人に自由意志が許されているとするならば、自らの運命をいかようにも変化させるがために、人生に対して反抗することにほかならないのではありませんか? あなたが望まない出来事を許さないでください」
「……あなたの心は……数え切れない理由によって…苦しみを抱え込んでいます。あなたはいつも……明日なんか来なければいいのに、人生はいつも長い、家族をはじめとして、愚かな者ばかりに囲まれて生きにくい、などと考えてきたでしょう。……あなたは、あなたを役立ててみてください。あなたは、あなたの望みをきっとかなえられることでしょう」
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