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…………。
川に架かる橋を渡ろうとして、立ち止まり、落ちていた本を拾い上げた誰かは、川面をぼんやりと見ている。
その者の左右にも、背後にも、誰もいなかった。
ただし……その者の手元には私があった。
……私を手にして、私の説明を受け、本を読んだ者は、どのような人間であっても、これからの人生を受け入れ、さらには理解したのだった。
それからというもの、人生の攻略本を常に持ち歩いては、次にどうなるのか、何が起きるのか、そればかりが気にかかり、何もかもがこれに書かれているんだ、と少しも疑うことなく真っ直ぐに認めた者は正しい道を選択していった。
誰もが、すぐに自身の名前を表紙へ書き込む。
人間なんて単純なものだった。
誤った自己認識を教え込まれ、ねじれた価値観を埋め込まれ、恐怖に支配されている者は特に。
人生の攻略本は、私は、絶対的に間違ってはいなかった。
それ自体は、私と関わった者はどのような人間であっても、素直に認めていた。
私に従っている限り、疑問を抱くようなことは起こらない。
しかし……どういうわけか、誰もが人生の攻略本からは離れていった。
私から離れていった。
理由は簡単だった。
「こんな生き方は楽しくないから」ということであった。
「一緒にはいたくない、こんなのはもういらない」「操られるのは、まっぴらごめんだ」と、男も女も、たくさんの人々から面と向かって人生の攻略本、つまり私は伝えられ、手放された。
地面に穴を掘って埋められたり、燃え盛る炎の中に投げ込まれたりもした。
……それが何だというのか。
私はびくともしなかった。
私は焼失しないし、必ずどこかの誰かが私を地面から見つけてくれる。
そんなことはわかっている。
求める心があれば、見つけられるだろう。
人間の望む限り、人間が依存する限り、私はあり続ける。
その確信がある、偽りなき確信の拠は人間の特性だ。
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