溺愛の始まり

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最後は糸を引いて終わった、長い長い口付けのあと。 きっと蕩けきった顔をしているであろう私を見据え、安心したのだろう。 「悪い。ちょっとだけ寝かせてくれ」 言った途端、私の膝に頭を乗せ、腰を抱き寄せ、あっという間に眠りに就いてしまった。 「ここ最近お仕事忙しくされてて。 しかもこの2日間は貴女のことを血眼になって探していましたから、ほとんど寝ていないはずです」 運転席から、黒田さん(この人もこう呼ぶ)が教えてくれた。 そうだったのか。 それはそれで、申し訳なかったな。 私はそっと、彼の髪を撫でた。 「どうします?どこに向かいますか?」 うぅぅん、どうしよう。 ほんとにファミレスでいいのかな? 「とりあえず、二丁目交差点付近のファミレスに行ってもらえますか?」 私は、少し遠めのファミレスを指定した。 その店は、ここから約30分。 その間眠れば、彼の体も少しは休まるだろう。 それからファミレスに着くまでの間、翔哉の端正な寝顔を眺めながら、私もウトウトとした。 猫が大好きな私は、私の膝の上で安心したように眠る彼が、ふと大きな猫のように思えたりして、愛おしい錯覚に陥ったりもしていた。
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