借金の精算

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借金の精算

「今月もご苦労さん。 5万、確かに。 えーと、残りの借金、あと30万ね」 「はぁ?」 思わず、そんな声を上げてしまった。 目の前の黒ずくめの男にギロ、とサングラス越しに睨まれ、慌てて口を押さえる。 え、でもおかしいでしょ。 先月、「あと20万」て言われたんだよ? 「…いつになったら終わるの」 溜息と共につい、ぽつりと漏らしてしまう。 毎月このビルに借金返済に通うようになって、もう2年が経つ。 「ボスの相手してくれりゃ、一発で精算してやるって言ってんだろ。 どう、今夜あたり」 ボスの相手。 初めて提示された先々月は、有り得ないと一笑に付した。 二度目の先月は、「いい加減にしてください」と、苛立った。 そして今月、三度目の今。 「…本当に、一回でチャラになるんですか」   「ああ、今夜でチャラだ」 「私、たいして経験ないんですけど」 「ただ突っ込むだけの性欲処理だから、関係ない」 服も脱がないし、ショーツ脱いで置いてあるローション塗って、股を開けば10分で終わる。 ボスは毎晩女を取り替えて、二度と同じ女は相手にしない。 名前は聞かれないどころか、会話は一切なし。 顔も覚えられることはない。 そもそも、顔なんて見ちゃいない。 「後腐れなくていいだろ。 もう、来月からここに来なくて済む。 終わったら、そのまま帰っていーよ。 そんで晴れて自由の身だ」 ───私は、意を決した。
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