溺愛の始まり

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ふぅ、とひと息ついて。 相変わらず死んだように眠る綺麗な寝顔を眺めながら、おにぎりを頬張った。 お米はきっとコシヒカリ、海苔も特級品、梅干しも紀州産に間違いない。 握り加減も素晴らしい。 誰か料理番みたいな黒づくめの人がいるんだろうか。 こんな美味しいおにぎり作れる人がいるなら、他のお料理も絶品だろう。 なんだよ、外に食べに行く必要ないじゃない。 今は腰の辺りに緩く抱き付かれてはいるものの、そこまで拘束されていないから、楽な体勢でいられる。 黒田さんは野宿みたいだなんて言ったけれど、さすが高級車、革張りのシートはフカフカだし、広々として足も十分伸ばせる。 借りた毛布も、うっとりするくらい滑らかで肌触りが良く、あったかい。 うちのお布団より全然寝心地いいよ、悲しいことに。 「ふわぁぁ…」 食べ終わったら、することないし、静かだし、まだ午後9時前だけど、眠くなって来た。 「寝るか」 私は、翔哉の隣にそのまま体を横たえた。 目の前の、美しい顔。 目にかかったサラサラの前髪を、指でそっと掻き分ける。 これが、ボスねぇ。 どうする、この安心しきった寝顔。 お店の猫と変わんないよ。 でもあのコワイ黒崎さんのボスなんだから、ほんとはめちゃくちゃコワイ人なんだろうな。 全然信じられないけど。 一向に崩れる気配のない整った顔を眺めながらそんなことをぼんやり考えているうちに、私はいつの間にか眠ってしまった。
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