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「勘違いすんなよ?
ボスだったら、カネ払ってでも突っ込まれてぇって女が山程いるんだからな」
黒ずくめの男に案内され、同じビルの最上階までエレベーターで向かう。
「一回きりだ。
ボスに惚れて、また会わせろとかほざいたら借金10倍にするから覚えとけ」
承諾する前は下手に出ていたくせに、承諾したら随分上からモノを言う。
どうやら、後腐れたくないのはそっちの方らしい。
どんなにいい男だったとしても、また会いたいなんてそんなこと、ほざくわけない。
やっとこの借金地獄から解放されるんだから。
一度覚悟を決めたら、逆に清々しい気分になるから不思議だ。
10分だ、10分。
その10分を耐えれば、私は解放される。
エレベーターが、最上階の8階に止まった。
「降りてまっすぐ、突き当たり右の部屋だから。 俺は、ここで。
じゃあな、瑠花ちゃん。
二度と会うことないと思うと寂しいけど。
もう、あんなクズの父親とは縁切れよ」
最後だからか、これまで聞いたことのない優しい言葉をかけてきた。
なんか、調子狂う。
「•••今迄お世話になりました」
世話になんかなってないのに、つられて思わず私もそんなことを言ってしまった。
名前も知らない、黒ずくめの男。
勝手に心の中で「黒崎さん」と呼んでいたけど、二度と会うことはないから、改めて名前を聞く必要はない。
私はエレベーターを降りて、ボスが待つその部屋に向かって歩き出した。
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