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次にやって来たのは、そのレストランから車でおよそ30分程の、山に近い、隠れ家的な高級和風旅館だった。
「この旅館にも食材を卸していてね。
ここは温泉の泉質がかなり良いから、一度瑠花にも入ってみて欲しくて。
離れに貸切露天風呂があるんだ。そこで少し休んで行こう」
そう言って、「女将には話を通してあるから」と、私をそのまま離れに案内した。
少し歩いて辿り着いたそこは、趣のある小部屋に、広めの露天風呂がお庭にあって。
紅葉が始まった山々の景色を一望出来る、絶好の場所だった。
「もしも気に入ったら、今度は泊まりに来ような」
そう言う翔哉は、お風呂に入ろうとする雰囲気が全くない。
「瑠花、一人でゆっくり入って。
俺はあっちの方で煙草でも吸ってるから」
「え…どうして?
せっかく来たんだもん、一緒に入ろうよ?」
私の言葉に、翔哉は困ったように肩を竦めた。
「一緒に入ると、瑠花のこと可愛いがりたくなっちゃうから」
「え…」
「ほら、入っておいで?」
優しく微笑み、私の頬を掌で包むように撫でる。
そしてその場を離れようとする翔哉の腕を、掴んで引き留めた。
「───ちょっと、なら、いいよ」
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