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占いに来た男
その時は1人だった。
圭吾も空も秀も湯野川も、いつも通りのバイトや、急に入った用事でいない。店の中には自分とマスターだけ。
いつものように喫茶店dreamは営業中で、いつものようにお客さんが立て込むと言うことも無かった。
喫茶の手伝いをしつつ、占いを見てほしいとやってきたお客様の対応をする。
今日は店の外で占いテーブルを出していた。
アーケードの中は買い物客が多かったが、占いの仕事はぽつぽつ状態。流れるお客さんの様子を見つつ、欠伸を噛み殺していた。
そこに、いきなり、1人の男性が目の前に座った。
両腕に抱えたスポーツバッグ。息を切らして辺りを窺っている男。
20代? 自分達とそう変わらないかな。
樹はそっと男を窺うと「大丈夫ですか?」と声をかけた。
後方を伺っていた男が樹に顔を向ける。
一瞬、目が見開き、視線をそらす。
口だけが小さく動いた。
「あ、あの、占い、ですよね」
「はい。占星術です」
一瞬、きょとんとする男に、樹は営業スマイルで、
「星占いです、よく雑誌とかの後ろの方に載ってるでしょう?」
と言った。
男もつられたように苦笑を浮かべると、「詳しくなくて」とか何とか。
持っていたバッグを足元に置く。
そしてまた後方に目をやる。
一体何なんだ。
ちらりと様子を窺いつつ、男の目線の先を見るが、普通にお客さんがアーケードを通り過ぎて行くばかり。
まあ、いいか。ともかく目の前に座った男に生年月日を聞いた。
ざっと答えたものの、男は「あ、いや」と口を濁すと「14、いや13日でした」と訂正する。
何とか営業スマイルを浮かべた答えてものの。
仕方がない。本人がそう言うんだから、その生年月日で占わないと。
樹は小型のパソコンを操作すると、ホロスコープを指し示した。
「今は色々と困難が起こりやすい時期かもしれませんね」
今まで視線をそらしていた男が驚いたようにこちらを凝視したのがわかる。
「でも、もうすぐ、そうですね、来月には落ち着いてくると思いますよ」
男の口元がふと緩む。今にも笑い出しそうな様子で「そうですか」とだけ答えた。
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