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バッグの中身
中から出て来たもの、袋の中に入っていたのは人間の手足。
「まさか、あんなものが」
マスターもげんなりした様子で、家に帰って行った。
警察がやってきて、話を聞かれた。バッグを置いて行った男と目の前で話していた樹はマスターと一緒に他の連中よりも長い時間、説明させられた。
そして、似顔絵も作成した。
「占星術で名前を聞くことはそうそうないからね」
「生年月日は言ったけど、何だか嘘っぽかったんだ」
家に帰り着いた樹は居間と言うより、狭い茶の間に座りこむと、熱い紅茶の入ったマグカップを両手で抱えた。
「嘘っぽかったって?」
秀が心配そうに眉を下げたまま、クッキーの入った皿を低いテーブルに置く。
「食欲ないだろうけど、何か入れたほうがいいよ」
よくドラマで聞くようなセリフを聞くことになろうとは思わなかった。
「そうですよ。空さんにも湯野川さんにも何とか口に入れさせましたからね」
現物を見ていない圭吾と秀は、食欲が減退することはなかったらしく、空達には無理やりクッキーやビスケットを食わせたらしい。
2人もあまりよくない顔色のまま、壁にもたれるようにして座っている。樹と同じようにマグカップを抱え込んでいた空が「ねえ」と顔を上げた。
「さっきの話だけど、その男は挙動不審だったの?」
樹は、天井を見上げると、小さくうなづいた。
「生年月日も適当そうだったんだ。目の前に座ったのも、何かから逃げてたのかも」
「逃げてた?」
「後ろ、アーケードの中だけどさ、通り過ぎる人の波を気にして見てたようだから」
落ち着きのない様子は何かから逃げていたのか、それとも追われているような気がしていたのか。
「本当に追われてたのかはわからないけど。あんなものを持って歩いてたんだから、精神的に追われてるような気持ちになっててもおかしくないしな」
あんなものの言葉に反応したのか、秀と圭吾が嫌そうな顔を見合わせた。
「やっぱり、その男が殺人犯ってことだよね」
「何があったかはわからないけどそうだろ」
樹はため息をつくと、湯野川が「もう忘れたほうがいいよ」と言った。
「話はしたし、似顔絵まで書いたんだし。あとは警察が捕まえてくれるよ」
「そうですよ。明日1日は店を休むってマスターも言ってたし、今日はゆっくり寝てください。明日の飯は僕と秀さんでなんとかしますから」
圭吾が殊勝なことを言う。
「まじ?」
空が秀と圭吾の顔を見やる。
「何か買ってきてくれたらいいからね」
湯野川が遠慮がちに言うと、圭吾が即座に反応した。
「何です? 僕が作るのはそんなに不安ですか? 確かに秀さんは怪しいけど」
「え? ちょっと、僕は圭吾より上手いと思うよ」
すぐさま、秀が異を唱えて、2人でやいやい言いだした。
これなら、すぐにいつもの調子に戻れるかな。
樹は空や湯野川と2人の様子を苦笑しつつ見ていた。
だが、事はそう簡単には過ぎてはいかなかった。
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