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殺された男の顔
事件は数日、ワイドショーネタとして騒がれていたものの、次の事件が起こればすぐさま忘れ去られるものだ。
テレビを見てやってくる新規のお客さんも何人かいたが、それも2,3日の事だった。
今日はもう以前の様な日常に戻っていた。
はずだったが。
樹の目の前には事件を調べているらしい刑事さんがやってきていた。
「この男です」
テーブルに置かれた写真を食い入るように見つめてしまう。
だが、目の前の刑事さんは樹を眉根を寄せて見つめた。
「そんなはずはないんだが」
「いや、この人ですよ。俺のとこで占って」
「この男のはずがないんですよ」
樹の言葉を刑事は遮った。
「どうしてですか? 確かにこの顔でしたよ」
口をへの字にする樹に刑事さんも呆れたように口をひん曲げる。
「こいつは殺された千田冬紀です。あなたはここで手足を見たでしょう?」
たぶん、間の抜けた顔で刑事さんを見ていたに違いない。
ため息をついた刑事さんは「よく似た別人のはずなんですよ。何か思い出したら連絡ください」と言って帰って行った。
「どういうことです?」
圭吾がカウンター越しに身体を乗り出した。
カウンターチェアに座りこんだ樹を囲むように全員が顔を揃えている。
刑事さんとのやり取りを遠巻きに見ていたようだ。
「だから、殺された奴とここに来た男の顔が同じなんだって」
「は?」
秀も湯野川も意味がわからないとばかりに顔を覗きこんでいる。
「ねえ、マスターは男の顔を少しは見てないの?」
助けを求めるようにカウンターの中にいたマスターに声をかけるものの、マスターも渋い顔を返すだけだ。
「中からじゃあ、お前の背中に隠れてお客さんの顔も見えにくいし。気にして窓は見てなかったからなあ」
樹の占いテーブルは店の外にあった。店の窓から占っているらしい様子は見て取れるが、その気がなければ気にして見ることもないだろう。
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