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殺人犯の友人
次に樹の前に現れたのは警察でも物見高い客でもなく。
「お友達、ですか?」
目の前に座った男は「田舎の友人でして、青木と言います」と言いつつ、目頭を押さえる。
こいつも普通そうな男だ。歳は占って逃げている犯人の男と同じぐらいだし、幼なじみというのも本当なのかな。
テレビで見たニュースで、友人と同じ顔の男が殺されているのを知った。もしかしてあいつなのか? でも名前が違う。
ワイドショーでは占いにやってきた男が切断した手足の入ったカバンを持っていたという。
とにかくどういうことなのか、調べていると、樹の話が耳に入ってきたという。
「死んだ男と同じ顔の男がここに来たとか」
「はあ」
「もしかしたら、そいつが俺の探してる友人なんじゃないかと」
「お友達はなんてお名前なんです?」
コーヒーを運んできた空が頭上から声をかけてきた。
椅子に座っていた男がびくりとして立ち上がる。
「あの」
「あっ、いや、すみません。びっくりして」
一瞬、すごい顔で空を睨んでいた気がするんだけど。
樹の視線に男は頭に手をやると、にやにやしつつ椅子に座り直す。
「あの、その方のお名前は?」
「え? ああ、名前ですね」
ちょっと口をつぐんだ男は、
「た、田中です」
と言った。
「田中さん?」
「ええ、そうです。田中」
「下のお名前は?」
「はい?」
目をぱちくりさせた男は口を開けると、
「た、田中、拓哉です」
「田中拓哉さん、そんなお名前だったんですね」
つぶやいた樹だが「でも」と顔を上げた。
「あなたが探してる田中さんとここに来た人が同じかどうかはわかりませんよ。同じ顔っていうか、似たような顔ってだけかもしれないし」
「いや、そいつなんだ」
「はい?」
男はまたハッとすると、口をもごもごさせている。
「いや、そいつなんじゃないかって。違ったら違ってでいいけど。そいつ、田中なら、探し出して助けてやりたくて」
そう言って、いきなり俯くと膝に手を置いた。
「親しいご関係だったんですね」
空が感動でもしたかのようにうんうんとうなづいている。
「いや、まあそうです」
「そんなに親しいご関係なのに、連絡が取れなかったんですか?」
一瞬きょとんとした男は、
「そ、それは」
と口を開ける。
「あいつ、いきなり連絡なくなって」
「何か悩みでもあったんですかねえ」
「そう、悩みだと思います。じゃなきゃあ、自殺サイトなんて」
「自殺!?」
今度は樹の声が裏返った。
「自殺したがってたんですか?」
男は顔をしかめたが、息を吐き出すと「ええ、たぶん」とうなづいた。
「どうもそうみたいで、だから早く探し出したいんです。あいつ、何か言ったか、置いて行ったかしませんでしたか?」
テーブルに身体を乗り出す男に樹と空は顔を見合わせた。
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