2. ギャル

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2. ギャル

「貸出、お願いします」 カウンターのパソコン越しに、本が差し出された。 朝に見た「5分シリーズ」の、最新刊。 視線を上げると、一人の女子高生と目が合った。 短く折ったスカート、緩めたネクタイ。茶髪。 名前はすぐ浮かんだ。 「きみは……」 結翔が目を反らすと、ギャルは笑った。 「こんにちは、相原先生」 「えっと、その」 「もしかしてと思って近付いてみたら。先生、ここでバイトしてるんだね」 「知り合い?」 隣にいた島田が怪訝(けげん)な顔で聞いた。 「もしかして実習の」 「ええと……はい、そうです」 結翔は島田とギャルの両方を見やった。 「先週から教育実習で通っている高校の、担当クラスにいる生徒です」 東台(ひがしだい)高校1年、月瀬(つきせ)美玲(みれい)。 昨日も国語の授業を行ったばかり。 教え子に、バイト先だけは知られたくなかった――。 結翔はわざと冷たく言い放った。 「すみませんが、ここは国立の大学図書館なので。高校生への図書の貸し出しはサービスの対象外となっています」 美玲は勝ち誇った笑みで言った。 「これでもダメ?」 バッグから入館証と貸し出しカードを取り出す。 「今まで、これで借りてこれたんだけどな」 カードに記載された名前は――西海正二郎。 「なんで、きみが」 声が震えた。 「まさか、先生から盗んで……?」 「やだ、そんな訳ないじゃん!」 人生はノリとテンション、それから人脈。 美玲はそう言ってピースをつくった。 「が貸してくれたの。『運命の一冊』を探しておいでって」 「おじいちゃん? 運命の一冊?」 「なあに? ギャルなのに本が好きなんて、おかしい?」 結翔は激しく動揺して、背筋を固めた。 「そうじゃなくて。それって、あの」 「そうそう。昨日の授業で、先生に出された宿題」 バッグから、今度は課題プリントが出てきた。 【ブックトークに挑戦 / 運命の一冊を紹介しよう】 結翔が実習のために徹夜で作ったものだった。 「先生がここにいるなんて、いいこと知っちゃったなあ。わたしがこれから出会う『運命の一冊』、一緒に探してくれない?」 無理、と言いかけたところで島田が割って入った。 「行けよ、相原」 「はい?」 「これは大事なレファレンス(照会・提供)業務だよ。カウンターは俺が引き受けるから、きみは館内を案内してやれ。運命かもしれないじゃん」 「イキり顔じゃなければかっこいいのに」 気が乗らなかった。 しかし実際、宿題を出したのは結翔自身だった。 仕方なく立ち上がる。 パーカーのポケットに手を突っ込んで、階段を(うなが)した。 「じゃあ『運命の一冊』、探すか」 「やったあ」 美玲の笑顔が弾けた。 「ありがとね、先生」 下手くそなウインクが炸裂(さくれつ)した。
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