14人が本棚に入れています
本棚に追加
2. ギャル
「貸出、お願いします」
カウンターのパソコン越しに、本が差し出された。
朝に見た「5分シリーズ」の、最新刊。
視線を上げると、一人の女子高生と目が合った。
短く折ったスカート、緩めたネクタイ。茶髪。
名前はすぐ浮かんだ。
「きみは……」
結翔が目を反らすと、ギャルは笑った。
「こんにちは、相原先生」
「えっと、その」
「もしかしてと思って近付いてみたら。先生、ここでバイトしてるんだね」
「知り合い?」
隣にいた島田が怪訝な顔で聞いた。
「もしかして実習の」
「ええと……はい、そうです」
結翔は島田とギャルの両方を見やった。
「先週から教育実習で通っている高校の、担当クラスにいる生徒です」
東台高校1年、月瀬美玲。
昨日も国語の授業を行ったばかり。
教え子に、バイト先だけは知られたくなかった――。
結翔はわざと冷たく言い放った。
「すみませんが、ここは国立の大学図書館なので。高校生への図書の貸し出しはサービスの対象外となっています」
美玲は勝ち誇った笑みで言った。
「これでもダメ?」
バッグから入館証と貸し出しカードを取り出す。
「今まで、これで借りてこれたんだけどな」
カードに記載された名前は――西海正二郎。
「なんで、きみが」
声が震えた。
「まさか、先生から盗んで……?」
「やだ、そんな訳ないじゃん!」
人生はノリとテンション、それから人脈。
美玲はそう言ってピースをつくった。
「おじいちゃんが貸してくれたの。『運命の一冊』を探しておいでって」
「おじいちゃん? 運命の一冊?」
「なあに? ギャルなのに本が好きなんて、おかしい?」
結翔は激しく動揺して、背筋を固めた。
「そうじゃなくて。それって、あの」
「そうそう。昨日の授業で、先生に出された宿題」
バッグから、今度は課題プリントが出てきた。
【ブックトークに挑戦 / 運命の一冊を紹介しよう】
結翔が実習のために徹夜で作ったものだった。
「先生がここにいるなんて、いいこと知っちゃったなあ。わたしがこれから出会う『運命の一冊』、一緒に探してくれない?」
無理、と言いかけたところで島田が割って入った。
「行けよ、相原」
「はい?」
「これは大事なレファレンス業務だよ。カウンターは俺が引き受けるから、きみは館内を案内してやれ。運命かもしれないじゃん」
「イキり顔じゃなければかっこいいのに」
気が乗らなかった。
しかし実際、宿題を出したのは結翔自身だった。
仕方なく立ち上がる。
パーカーのポケットに手を突っ込んで、階段を促した。
「じゃあ『運命の一冊』、探すか」
「やったあ」
美玲の笑顔が弾けた。
「ありがとね、先生」
下手くそなウインクが炸裂した。
最初のコメントを投稿しよう!