8. 本棚

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8. 本棚

実習最終日、最後のホームルームが始まった。 「皆さん、2週間ありがとうございました」 結翔が挨拶すると、生徒が温かい拍手を送った。 教壇から降りる時、教室の後ろに目をやった。 生徒が私物を入れるロッカーの上に、本棚が置かれていた。 図書のテーマは様々だった。 アニメ、漫画、アイドル、歌い手、お笑い、ゲーム――。 結翔が図書室から本をかき集めて作った、生徒の「好き」で埋めたオリジナル本棚。 読書が苦手な生徒も手を伸ばしてくれた。 新しい本との出会いに、未来の紅葉たちはきらきらと笑った。 放課後になり、結翔は実習生(ひかえ)室で荷物をまとめた。 「相原先生!」 美玲の声が響いた。 唐突な茶髪ギャルの登場に、他の実習生がざわついた。 美玲は視線を気にも留めず、結翔めがけて飛んできた。 「この子、わたしの宝物になった」 ライトブルーの本を両腕で抱えていた。 「ありがとね。これからも、頑張って」 手渡されたのは和紙の(しおり)。 赤い紅葉の隣に、流れ星が描かれていた。 「『みなみ風』の入居者さんと作ったの。だって、ほら」 下手くそなウインク。 「先生もいつかまた、『運命の一冊』に出会うかもしれないじゃん?」 結翔は一瞬表情を止めた。 それから、ふふと笑った。 「もう、出会ってるよ」 美玲の頬が、紅葉色に染まった。 窓の向こう側に、秋晴れの空が広がっていた。 (了)
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