一本の君

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僕は、変態だ。 一本の君 棚には、漫画が並んでいた。 それを抜き、裏に隠していた小瓶を手にする。 机に置き、蓋をぱかりと開けた。 中に入っていた一本を摘み、じっくりと観察する。 その白い髪の毛は、恋人のものだった。 じっくりと、じっくりと。角度を変えて見つめる。 それが、加藤シュウジの変態性だった。 部屋に遊びに行った時に見つけた一本も、昨日の枕に付いていたものも、ちゃんと小瓶に入っている。 アルビノ特有の綺麗な白毛も、エクステの様に染めた赤いものも、どちらも保存してあった。 シュウジは、恋人である神里シオンの髪の毛を集めるのが、趣味の一つになっていた。 罪悪感と背徳感は有るが、それ以上に、彼の一部をこの小瓶に閉じ込めているという事で独占欲が満たされている。 でも、この趣味は知られてはいけない。 誰かに知られたら、気持ち悪いと罵られるだろう。 特に、シオンには絶対知られてはいけない。 そう思ってたのに。 黒い空に星が散りばめられている。 冷たい風を有難いと思いつつ、これからは寒くなるのだなあと考えながらコンビニの帰り道を歩いていた。 寮に戻り、自部屋のドアノブを回す。 ただいま、と誰も聞かない帰宅時の口癖を呟いた。 それに、おかえり、と返事が有る。 その声がシオンにしか聞こえなくて、シュウジはエコバッグを落とし固まった。 冷や汗が出る。 バタバタと廊下を抜けると、アルビノの少年が自室に居た。 シオンはクッションに寄り掛かりながら地べたに座り、漫画を読んでいる。 「どっ!!どうして居るの!!??」 シオンを自部屋に入れる時は、いつもシュウジが一緒だった。 「玄関の鍵開いてたから、お留守番しようと思って」 色々端折った言葉だが、そういえば鍵をかけ忘れたかもしれないと思い直す。 「い、言ってくれればよかったのに…」 ああ、確かに。とシオンはとぼけた。 「ところでさあ」 シオンは部屋の隅に置いてある棚から、何かをを手に取る。 「これ、何?」 シオンは微笑んでいた。 自分の髪の毛が入った小瓶を手にして。 「……ふぅん」 自分の変態行為を白状するには、時間が掛かった。 罪悪感と絶望で、シュウジは潰れそうになる。 しかしシオンの反応は淡白なものだった。 ごめん、と呟くと、スピネルの眼で瞬きをする。 「そんな謝る事かな?」 え、とシュウジは漏らした。 「別に痛い事な訳でもないし、迷惑じゃないし。あ、ゴミを取っておく、っていうのはアレか」 「シオンの髪はゴミじゃない」 するりと否定の言葉が出て、自分で驚く。 「……確かに、加藤にとっては宝物か」 シオンはただ、この変態行為を認めてくれた。 それが意外で、ほっとして、嬉しくて。 シオンのそういう所が好きだな、と改めて思った。 「じゃあ加藤の部屋に来たら、一本髪の毛をこの瓶に入れよう」 その提案に、えっ!?と再度驚きの声が出る。 「この瓶が一杯なるまで、来てもいい?」 どこか甘い声で、シオンは言った。 「!!うん!!二個目も、三個目もいっぱいになっても来て!!」 シュウジは嬉しくて、前のめりで言う。 その勢いが可笑しかったのか、シオンは小さく笑った。 「あ、でも同居したら自宅に帰るだけか……」 スピネルの眼を動かし、シオンは考える。 「ま、その時は小瓶も要らなくなるか」 その理由を察知して、シュウジの顔に血が上った。 しかし、加藤にあんなヘキが有るとは思わなかったな。 闇の中、シオンは帷を見上げる。 俺も真似しよっかな、と雪の少年は恋人を想いながら帰りを歩いた。
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