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俺は街中でお金を集めている男に出会った。お腹をまるまると太らせて顎が五重顎になった巨漢が恵まれない僕にお金を入れてくださいと書かれた箱を持って立っていた。
男は野太い声を出した。
「ご通行中、すみません。僕はこの道を通る人からお金を集めています。あなたのお金を僕に寄付してくれませんか?」
「なんで俺があんたにお金をあげないといけないんだ?」
男は俺を上から下まで舐めるように見た。季節はもう冬なのに男は半袖で、全身を覆う脂肪から汗を垂れ流していた。
「あなたは仕事ができる人のように見えます。お金をたくさん持っていると思います」
「いや、別に俺は仕事できないよ。普通だよ」
男がニヒヒと豪快に笑う。
「謙遜しなくても大丈夫です。恵まれない僕にお金をわけてくれませんか?」
俺は男の太った体躯を見て首を傾げる。深いため息を洩らした。
「いや、あんたが何日も何も食べてないならわかるけど。どう見ても太ってるよね。というより、よくそこまで太れたね」
「僕の体は太って見えますが、それは服のせいです。ずっとご飯を食べていません」
俺は男のほっぺたをじっと眺めて気づいた。
「ほっぺたに青海苔やマヨネーズがついているぞ。あんた、お好み焼きでも食べたんじゃないか」
男はゆっくりと太い首を振った。
「そんなわけないじゃないですか。冗談言わないでください。僕が食べたのは焼きそばです」
「どっちでもいいわ。食べてるじゃねえか!」
男は瞳に涙を浮かべた。
「食べ過ぎで胃が悪いので、胃腸薬を買えるお金を恵まれない僕にください」
「自業自得だろうが!」
男はたぷたぷとしたお腹をさすった。
「道行く人々からお金を集める計画に協力してくださいよ。人に善意を施すとあなたにも必ず返ってきます。恵まれない僕が誰よりも肥え太るためにあなたのお金をください」
「言葉が完全に矛盾してる。あんたにだけは何があってもあげないよ!」
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