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「私もあんなおうちに住みたい!」
「それは残念だな。新しい我が家は小さな日本風の平屋だよ」
「えー、つまらないの」
「……あの白い花は何」
父さんが驚いた顔をしたのがルームミラー越しに分かりました。
この町へ越す事が決まってからというもの、僕は友達と離れなくてはならない寂しさから父さんとあまり口をきいていないのでした。
「あれは白バラだよ。綺麗だね」
返事が出来ませんでした。
僕にはどこかあのバラの生垣が意志を持って、屋敷を守っているように見えました。
だからこそ、翌日にセツが英字新聞にくるまれたバラを手に帰って来た時、言葉を失いました。
「見て。お兄ちゃん。素敵でしょう」
「セツ、勝手にあのお屋敷に入ったのか?」
セツは首を横に振りました。
僕の剣幕に驚いたのでしょう。目に涙を浮かべながら「入院しているお母さんにって、もらったの」とか細い声で言いました。
「もらった? 誰から?」
「……お姫様」
どうも、要領を得ません。
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