E p i s o d e .1

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   そんな夢を、半年ほど前に私が壊した。    バイト終わり、アパートに帰ると部屋の前にさっきのおじさんが居たのだ。  スーツ姿で体格のいいツーブロックヘア。眉は全剃り。見るからに怖そうで、私の知り合いでもなく、積極的に関わろうとしないその人は「姉ちゃん、この部屋に住んでんの?」と、声をかけられて、「あ、ハイ」と返事をしてしまったのだ。 「ほんなら良かったわ。俺はあんたの彼氏の知り合いなんや」  怖そうなおじさんはニコッと笑顔を浮かべた。部屋にあげると、ケンちゃんはリビングに居た。勝手におじさんを連れてきた私を優しいケンちゃんは怒らなかった。    知り合いだというおじさんは、ケンちゃんを見るなり殴った。人を殴られた気色の悪い音を初めて聞いた。  ケンちゃんはおじさんにただ謝っていた。だから私も謝った。謝って許されるものなのか、何を謝ってるのか分からないまま謝った。  ケンちゃんはおじさんに、戸棚の中に仕舞っていた封筒を差し出した。生活費にと折半しているお金だった。二人の結婚資金にと貯めているお金だった。  それを見て、おじさんは足りないと言った。  何が足りないのか私は分からなかった。  
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