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そこでケンちゃんが頼ったのはあのおじさんで、おじさんはお金を貸してくれたはいいけれど、定期的に返済を求めて家に来ている、とのこと。
貸したものは返さなきゃいけない。お金ならなおさらすぐに返さなきゃ。
でも、私のお給料だって少ないし、ケンちゃんのお給料もそんなに多くない。ご飯は大体私のバイト先で貰う期限切れの惣菜だし、欲しいものはほとんど買えない。節約をしながらなんとかやりくりしている状態なのだ。
「(バイト、増やそうかな……)」
あのおじさんを家に上げてしまったのは私なので、責任は少なからず私にもある。ドライヤーで乾かしてもらいながら携帯で求人サイトを見た。やはり、割のいいバイトは夜職が多い。
キャバクラ、ホステス、風俗、ガールズバー……。お喋りが絶望的に下手くそな私に向いてるはずがない。
諦めて携帯を閉じると、終わりなのかケンちゃんはドライヤーを止めた。まだ毛先は濡れたままだったけれど、私は「ありがとう」と言ってドライヤーを受け取りコンセントから抜くとコードをぐるぐると巻いて、テーブルの上を片付けた。
夜ご飯は食べていないのに、まだ胃は蓋をしたままだった。寝る、と言ってケンちゃんは寝室へ向かった。後を追うと、さっきまで私があのおじさんに犯されていたままの布団に寝転んで布団を被ると、スマホを触り始めた。
「あお、きてよ。1人じゃさみいよ」
「うん」
笑顔を作ってケンちゃんの隣に並んだ。布団の中で抱きしめられた。ちっとも温かくならなかった。そればかりかさっきのおじさんを思い出してしまい、気持ち悪くて仕方なかった。
途中で起き上がるとリビングへ行き硬いソファーに寝転んだ。
私の中の、何かが壊れる音がした。
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