E p i s o d e .1

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 正直、ポテトサラダさんがどの方面に帰るか分からないけれど、怖いお仕事をしているなら繁華街の方だと先入観が先走りそちらに向かって走った。運良く小雨だった。私の他にも傘は差さずに歩いている人はいた。  ただ、繁華街は人通りも多く見失うのは時間の問題……というか既に手遅れかもしれない。  砂漠で落としたコインを拾う程の確率だ。  しかし私の運は尽きておらず、あの人の後ろ姿を見つけた。白いロンTとダボッとしたデニム。雑に結ばれたお団子と雑ゆえに纏まっていない後ろ髪。極めつけはうちの店のビニール袋。 「ぽ……ポテトサラダのお客様!!」  咄嗟に吐き出した言葉はかなり頓珍漢で、苦し紛れだった。しかしそこでも運は私を見放さず、ポテトサラダさんは振り返ってくれた。ポテトサラダさん以外の人も私を見ていたと思う。 「……は?」 彼の長い前髪から覗く目は不審者を見るようなそれをしていた。これはまずい。 「あ、あの、ポテトサラダ……唐揚げ弁当と、ポテトサラダと、シュークリームをお買い上げの……良かったあ〜……」 まずいって知っているのに、安心して力の抜けた私はへにゃりとしゃがみ込んだ。上がった息を整えていると、何故か私の周りの雨が止んだ。 「傘は?」 答えは、ポテトサラダさんが私に傘を差してくれているからだった。こんな大きな傘があるんだ……と少々驚きながら答える。 「ああ、店にあります。急いでいたので差す暇がなくて」 「俺に何?」 無表情だとやっぱり怖いその人はフラットな声で続けるから、ポケットの中身を取り出した。
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