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「あ!あの……実は先程お釣りをお渡し忘れていたみたいで。申し訳ありませんでした」
深深と頭を下げ、それからお釣りを手渡した。いつもは拒否されるレシートも添えて差し出した。
「は?そんなんで?」
「はい。受け取って下さい」
「……要らない」
「え!?どうして!?」
「両手が塞がってる。財布を取るのが面倒」
「そんなの、理由になりませんよ!?」
「募金箱にでも入れて」
「いやです。私が走った意味が無くなります!」
「お疲れ」
「おつかれじゃなくて、駄目です。こういうのはきっちりしないと、お金の神様に見捨てられます」
「……」
既に見放されている私が言っても信用がないけれど、今は、渡す方が大事である。
するとその人は無表情のまま私に傘を差し出し「持ってて」と言うので素直に受け取った。そして私の右手から釣り銭を受け取ると「どうも」と言ってそのまま歩き始めるので私はポカンと口を開けた。
「え!?あ、あの……傘!傘忘れてますよ!?」
小走りで駆け寄ると、ポテトサラダさんは右手に小銭と左手に弁当の入ったビニール袋を見せた。
「持って帰って。手がふさがってる」
そんなの両手が塞がる理由にならない。
「だっ……、ダメです、お客様が濡れます」
それに、ポテトサラダさんが濡れていい理由にもならない。
「雨足が強まったらその辺のコンビニで買うから別いい」
「や、でも、そこまでされる必要……」
「おまえ、しつこいね」
ニヒルな笑みが落ちてきて、途端に立ち止まった。
「早くバイト戻んなよ」
低くなった声。
「どうせまたあんたのバイト先行くんだし」
忘れたように、じゃあ、を付け足して、ポテトサラダさんは傘もささずに夜の街に消えていった。
「やっぱり、森のくまさん……」
その光景をみながら、ぽつりと零した。雨がこれ以上強くならないことを祈りながら。
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