E p i s o d e .1

4/19
前へ
/23ページ
次へ
「ううん、大丈夫。……だって今日帰ってもらっても、どうせ数日後には来るんでしょ?おじさん」 「うん……それはそうなんだけど、あおが辛いなら別に……」 「平気。私ね?ケンちゃんのためならなんだって出来るんだ!」  これは、私の本心だ。  優しいケンちゃんのためなら私はなんだって出来る。  ……何だって……   「ありがとうあお。あおが居てくれて……良かった」  ケンちゃんが私を抱きしめる。私もケンちゃんの背中に震える手を回した。愛してるよ、とケンちゃんが耳元で囁いた。私も、と返事をするとケンちゃんはすぐに立ち上がった。もうすこし抱きしめて欲しかった。この寒さは、あの一瞬じゃあ温もらなかった。 ケンちゃんの足音が遠くなって、ガチャ、とドアが開く音と共に、「いて!」と、鈍い音と滲んだ声が重なって聞こえた。 「居てるんやったらさっさと開けんかいこら」 「すみません、風呂はいってて……」 「ったく。逃げたと思って、俺は心配になったぜ」 「逃げるわけないじゃないですか、はは」    二人の会話が遠くで聞こえた。  実際、古くて狭い1dkなのでかなり近い場所で繰り広げられている会話だ。  はあ、はあ、と呼吸が荒くなった。寒さがいっとう増した。腰が重くて立ち上がることは出来ない。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

400人が本棚に入れています
本棚に追加