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「ううん、大丈夫。……だって今日帰ってもらっても、どうせ数日後には来るんでしょ?おじさん」
「うん……それはそうなんだけど、あおが辛いなら別に……」
「平気。私ね?ケンちゃんのためならなんだって出来るんだ!」
これは、私の本心だ。
優しいケンちゃんのためなら私はなんだって出来る。
……何だって……
「ありがとうあお。あおが居てくれて……良かった」
ケンちゃんが私を抱きしめる。私もケンちゃんの背中に震える手を回した。愛してるよ、とケンちゃんが耳元で囁いた。私も、と返事をするとケンちゃんはすぐに立ち上がった。もうすこし抱きしめて欲しかった。この寒さは、あの一瞬じゃあ温もらなかった。
ケンちゃんの足音が遠くなって、ガチャ、とドアが開く音と共に、「いて!」と、鈍い音と滲んだ声が重なって聞こえた。
「居てるんやったらさっさと開けんかいこら」
「すみません、風呂はいってて……」
「ったく。逃げたと思って、俺は心配になったぜ」
「逃げるわけないじゃないですか、はは」
二人の会話が遠くで聞こえた。
実際、古くて狭い1dkなのでかなり近い場所で繰り広げられている会話だ。
はあ、はあ、と呼吸が荒くなった。寒さがいっとう増した。腰が重くて立ち上がることは出来ない。
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