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パラパラと、紙幣が捲られるざらついた音が届く。
「はあ、今月も足りんのお。兄ちゃん、返す気あんのか」
「ありますって!用意してるじゃないですか!」
「きっちり揃えて用意しろや餓鬼」
「いて、さーせん……はは、っすね」
「なあ、とっとと姉ちゃんを働かせな?その方がお前も手っ取り早いだろ?」
突然私の話題に代わって、顔を上げた。
葬式帰りなのか、こんな時間に真っ黒のスーツ姿に真っ黒のシャツに真っ黒のネクタイという冠婚葬祭スタイルのおじさんは私を舐めまわすように見ていて、それが無性に気持ちが悪かった。
「それは……無理です。あおも俺もいやで……」
「ケンちゃん……」
ケンちゃんが私を抱きしめてくれる。真っ暗な心に一筋の光が差したようだった。
「ははっ、働きたくなったら紹介するからすぐに言えや〜」
そう言っておじさんは奥の部屋へと無遠慮に踏み込むから、ギシギシと床が鳴った。ケンちゃんは突き放したように私を離す。
ブルブルと首を横に振った。けれども、ケンちゃんはこくりと頷くだけだった。
おぼれた私を助けてくれたのはケンちゃんだ。その船がどこへ行き着こうが、私に拒否権は無いのだ。
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