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おじさんが言う〝店〟は、いわゆる風俗だ。
「わ……たしも……いやです……」
震える声で言葉を紡ぐと、「釣れんのお」と、おじさんは軽く服を着て腰を持ち上げた。
遅れてリビングに戻ると、ケンちゃんは玄関先でおじさんの靴を揃えて、へこへことお辞儀をしては、おじさんが帰るのを見送っていた。
ケンちゃんはずっと、ずっと笑顔だった。
それを横目に私は直ぐにバスルームへ行きシャワーを浴びた。膝を曲げないと入れないほど小さなユニットバスに、おじさんの体液と混ざった水が溜まっていく。それに足を付けるのもいやで、いやで、いやで。
節約しているのにボディソープで身体をゴシゴシと洗って、シャワーはその間流しっぱなしにしていた。
――――なんで。
「おええ……っ」
気持ちが悪いのになにも吐けずに嘔吐いていると、吐くものが無いから胃液が出た。そういえば、夜ご飯何も食べてないや、と、今更気づいた。
シャワーを終わらせ、トレーナーとショーパンでバスルームから出ると、ケンちゃんはリビングでテレビを見ていた。声を聞く限りお笑い番組らしい。
「あお、髪濡れてるって」
「……うん……」
「おいで、乾かしてあげる」
「……うん……」
胡座をかくケンちゃんの前に体育座りになると、芸人さんのコントの途中だっていうのにケンちゃんはドライヤーの風を私の髪にあてた。テレビの中のコンビ芸人は最早動作だけで、口パクだ。面白いのか全くわからない。
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