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序話
これは、ある少年の生きた軌跡である。
「ぶぇっくしゅんっ!」
4月16日
まだ少し肌寒く、桜の花弁が舞う。
この物語の主人公、九条青龍は、春が嫌いだ。
なぜなら、花粉が辛いからだ。青龍は物凄く花粉に弱く、薬もマスクもない青龍にとってはとても辛いことだった。
そんな青龍が来ていた場所、それは
《紅霧山高校》の入学式だった。
ここまで来た経緯を説明する。
九条青龍はプロの水泳選手で、負け無しと恐れられるほど、大会では毎回優勝、オリンピック選手に匹敵するほどの実力を持っていた。大会に優勝するたびに、お母さんは全力で褒めてくれて、美味しいご飯を作ってくれた。それがとても嬉しくて、自分も頑張っていた。
だが、自分が努力するほど他人も努力していて、段々優勝する回数が減っていき、大会に出る回数すら減っていった。
お母さんも怒ることはしなかった。最初は心配してくれていたが、だんだん素っ気なくなっていき、自分に興味を示さなくなった。
ついに大会に全く出られなくなってしまった。その日はその告知をする度に、無視されることだって、その日帰ってこないことも、夕食を抜きにされることもあった。
ある日、リビングにいくと、お母さんともう1人、中学一年生くらいの女の子がいた。とてもお母さんに似ていた気がした。
「こんにちは。初めまして、九条青龍です。」
「ええ、初めまして。私、藍原 静華といいます。突然ですけど、この家を出て言って貰えますか?」
「え?」
思わず間抜けな声が出た。それもそうだ、今初めて会った女の子に家を出て行けと言われたのだ。誰でも驚く。
「静華はね、お母さんの子供なのよ。頭も良くて、ピアノがとても上手なの。貴方よりよっぽど才のある、偉い子なのよ!今まで違うところで暮らしていたんだけど、お母さんとどうしても暮らしたいって言うから…」
「なら僕も…」
「いやよ!あんたみたいな才のない人間と一緒にいると私も悪くなってしまうわw」
「大丈夫よ!必要なものだけまとめて、ほかは全て捨てておいたわ!」
「え!?」
そこにあったのはTシャツとジーパン、下着の1着ずつだった。今まで大切にしてきたパンダのぬいぐるみもノートもそこには無かった。
「心配しないで!50万円をわたすから、そこからやりくりしてちょうだい。」
「「バイバイ!」」
家を追い出された。まだゴミを回収されていないことを願い、ゴミ置き場まで向かった。
「良かった。」
パンダのぬいぐるみがあった。僕はそれを必死で取っていた。
「汚いわね」「あの子、九条さんちの子よね!」
近所の人たちがヒソヒソ何かを話しているが、ぬいぐるみがあったことだけでもとても嬉しく思えた。
「これからどこに行く?パン太!」
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