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『仕事なのに……』25
誰も、自分では答えさせてはくれない。右奥に座った小山から順番に、左隣の国木が説明をする。
「一番、小山、ニックネームは独身貴族」
国木がわざとらしく球場アナウンスの真似をして紹介する。
「こいつはねぇ、昨年離婚したばかりなのに全く落ち込むでもなく」
まだ説明を始めたばかりなのに、女がいきなり両脚をばたつかせ、海老のように体を曲げて笑い続けた。四人が呆気にとられている間に女は姿勢を戻す。次に素早い動作で体を横に向け、右手を短銃に似せて突き出したかと思えば、「私と一緒! バ・ツ・イ・チ」と、一文字ずつ声に合わせて小山を撃ち抜く。小山も命中しているように頭を四段階にして後方へずらす。俄コンビにしてはなかなか息が合っていた。
「俺達は似た者同士。お似合いだぜぇ」
「ほんとね。じゃあ毎日会いに来てぇ」
「俺は、彦星じゃあ!」
「年に一度? ばかっ!」
小山の冗談がうけている。僕は乗り遅れた気分になって、小山が羨ましく思えた。
一昔前なら、離婚ともなれば世間から後ろ指をさされるくらい、暗いイメージがあった。それが今、小山と女の明るい表情を見ていると、二人の共通項目がバツイチと姿を変えて市民権を得ただけではなく、まるで一つのブランド品として誇らしげにも思えてくる。
初球をクリーンヒットして、ガッツポーズを取っている小山の姿が目に映った。
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