『仕事なのに……』21

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『仕事なのに……』21

 最近の僕は女っ気の無い生活が続いているせいか、アルコールが入ると欲求不満から異性に対する感情が駆り立てられる時がある。目の前の会話を余所に先程すれ違った女のことを考えていた。  お母ちゃん、家に帰らないとだめなんだろう。か細い男の言葉が頭に残っていた。  あの三人はどういう関係なのだろうか。  三人が並列して帰らないところを考えれば、まず友人関係ではない。男同士が飲み友達だ。そして、飲みに行った場所に女がいた。胸の膨らみを覗かせる服装から、女は水商売と考えるのが妥当だ。ちょうど飲み終えて帰る客を見送っていた。女の方が誘ったと推測できる男の返答から、女には子供がいる。しかし、どう見ても女は三十歳くらいにしか見えなかった。子供がいるのに客を誘い、「男が待っているのに」という科白(せりふ)を男が口にしなかったことから、女はシングルに違いない。男は女の家庭事情を知っているだけに、子供も含めて受け止めるほどの責任感と愛情はなく、口説いても仕方がないと思っている。男を誘う女の家に、男の同居者はいない。子供はそこそこ大きいという答えも導き出せる。もしも子供がまだ幼い子であるならば、母親としてはいつまでもほったらかしにしてはおけず、仕事が済めばすぐに帰りたがるものだ。仮に、託児所へ預けているとすれば尚更(なおさら)早く迎えに行かなければ今日の稼ぎがなくなってしまう。だから、子供は一人でも留守番ができる、小学生の高学年か中学生程度だろう。逆算すれば、二十歳そこそこで子供を産んだことになる。親に子供を預けることも考えられるが、同居ともなればそうそう朝帰りなどできないはずだ。帰り際の男に抱きついて誘っているのなら、他にも声をかけていることくらいは想像できる。やはり親との同居は考えられない。そして、女には固有される男はいない。女は自由恋愛を楽しめる身であるが、結局のところさっきのか細い男には、本気で女を受け入れる思いと包容力がなかったのだろう。と推断(すいだん)できる。
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