『仕事なのに……』22

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『仕事なのに……』22

 だが、僕ならばどうだろうか。  女は子供のために必死で生きている。生活のためにがんばって(かせ)いでいる。男にとって、自分だけが女の心を支え守っているんだという自負は、至高(しこう)の喜びとなり至極(しごく)の満足感を味わえるものだ。  僕ならば女を受け入れられる。  受け止められるだろう。  僕ならきっと……。  お母さんとの楽しい会話とご自慢のそばを堪能(たんのう)し、僕達は心と体を十二分に温めた。このあと僕達に残されているのはコンビニで酒盛(さかも)りの準備をして帰るのみ。 「お母さんご馳走様(ちそうさま)」 「ありがとう。また来てねぇ」 「いやぁ、本当においしかったです!」  初体験の味に満足した三人が感想を伝えた。  お母さんはこくりとうなずき、感謝をあらわして笑顔で見送ってくれた。  蕎麦屋をあとにして、来た道とは逆にタクシー乗り場の方へ足を向けた。店先の通り道は、色褪(いろあ)せたアスファルトだけが目立ち、木枯らしの優先道路となっている。先程、か細い男がぶつかったスナックの扉から若者の歌声が漏れてきた。音楽に重ねて聴くカラオケの歌はまだましだが、お店の外に漏れる歌はアカペラみたいになって誤魔化(ごまか)しが()かず、聴くに堪えられないほどリズムがずれていた。  それにしても上機嫌なことだ。  突き当たりの角を右に曲がればタクシー乗り場に行き着く。乗車すれば十分もかからない距離で帰れる。
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