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『仕事なのに……』23
曲がり角にさしかかると、貸しビルの手前で死角になっていた窪みに、女が一人、壁に身を預けて立っていた。
「お兄さん達、ちょっとだけ飲んでいかない」
酒焼けの掠れた声だがはっきりと聞こえた。友の顔が何かに縫いつけられて引っ張られるように、一斉に振り向いた。目線の先には先程すれ違った女がそこにいた。誰と恋をしても咎めを受けない小山と半ばやけっぱちの国木が満更でもなく口元を緩めた。僕は平静さを装っていたが、心の中では女との縁を誰よりも感じ取っていた。横目で見ると、田中だけが躊躇していた。
遊び慣れた小山がぼったくられないように飲み代の交渉を始める。
先程の光景を覚えていた僕はそんなお店ではないと安心していた。
「一時間くらいでお店を閉めるから、一人六千円ね」
女はきっぱりと言い切った。
一度喰らいついたと見極めれば女の方が交渉に長けていた。一番乗り気で交渉しやすい小山だけを見つめ返し、たんたんと話を進める。すぐに交渉が成立した。あとで追加請求をされないよう、小山が三人から会費を集めて女に手渡した。女はご機嫌な振る舞いで、僕達を一階の手前にあるお店へ導いた。
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